手術数の多い病院は手術時の輸血量が少ない：医療ビッグデ−タの解析例から 
現在の日本は、国民皆保険制度のおかげで、医療へのフリ−アクセスが確保され、自由に選択し医療を受けることができます。また診療記録のデジタル化が始まり、診療記録が永続的に蓄積できるようになってきました。最近では、このぼう大な医療データ（医療ビッグデ−タ）を利用、解析する試みがなされるようになってきました。2017年1月には、厚生労働省も医療にビッグデ−タを活用するための会議を立ち上げました。今回は一つの例として、診断群分類（DPC）データの解析から、手術数と手術時輸血量の逆相関が明らかとなった例をご紹介します。
一般的に、病院あたりの手術実施数と手術成績は関連することが知られています。従って「病院ランキング」などでは、手術数の多い施設が通常上位にきます。しかし問題点も多々あります。例えば手術執刀医の少ない中・小規模病院では、必然的に執刀医の多い大病院（例えば大学病院）より年間手術数は少なくなりますが、執刀医あたりの患者数で比較すれば、中・小規模病院の執刀医のほうが手術数も多く、経験豊富な場合も想定されます。また来院する患者背景（病気の重症度、年齢、遺伝素因など）も、施設によりばらつきがある可能性もあります。
このように様々な問題点はありますが、現実には手術実施数が多い方が、様々な手術において予後が良いことが多くの研究で報告されています。手術数が多いということは、少なくともその施設全体においては、様々な状況での経験数が多いということですから、良い結果につながるのかも知れません。実際、手術数の多さは、担当外科医の習熟度や情報量、さらに病院の患者管理体制にも反映されていると考えられています。
さて、医療ビッグデ−タの解析の一つとして、手術の術式・技量を推測させる胃癌術中の輸血量と年間手術数の関係が明らかにされました（図参照）。図の横軸は、胃癌の年間手術数から分類した施設別表示です。一番少ない施設（図の一番左側の青丸）は、年間8例以下の手術数です。一番多い施設（図の一番右の青丸）は、年間65例以上です。縦軸は、手術一回あたりにどのくらい輸血が必要だったかml単位で示してあります。図から分かるように、手術数と輸血量は逆相関の関係にあります。輸血量では、およそ5倍程度の差がみられます。すなわち、手術数の多い、おそらく習熟度の高い医師と良い管理体制のある施設では、患者への手術負担も少なく輸血量も少なくて済むことが推測されます。
これからは、様々な診断群分類DPCデ−タなどの医療ビッグデ−タの解析がますます進み､より良い医療へつながることを期待したいものです。(by Mashi)
参考文献：伏見清秀、医療ビッグデ−タをいかに解析するか：DPCデ−タの解析. 医学のあゆみ、259, 760-766, （2016）
( コラム )
手術数の多い病院は手術時の輸血量が少ない（参考文献より抜粋、模式化）