香りと形でハチをだます花（ビ−・オ−キッド） 
昆虫にとって植物は、エネルギ−源や体のもとになる命の糧です。花の蜜はエネルギ−源であり、花粉はタンパク源になります。生物は、お互いに少しずつ影響を受けながら共進化しますが、昆虫と花にもその例を見ることができます。ある種のランはメスバチの姿にそっくりになり、さらにフェロモン類似物質まで産生し、オスのハチをだましてしまうことがあります。
ラン（オ−キッド）の仲間に、ビ−・オ−キッドと呼ばれるオフリス属のランがあり、ハナバチのメスに似た花の形をした進化をしています（図参照）。ラン科オフリス属は、ヨーロッパ地中海沿岸を中心に自生し、約25種が知られているそうです。ハチそっくりなので、英語でビー・オーキッド（Bee Orchid）と呼ばれています。ビー･オーキッドは、花の形や香りがハナバチのメスに擬態しています。そのため交尾目的で飛来するオスを引きつけ、花に来たオスの体に花粉塊をつけ、花粉を運んでもらうように進化したランです。2015年の世界らん展でも特別展示されたそうです。
ビー･オーキッドのだましのテクニック、その１。花の唇弁の形、色、光沢などがメスバチによく似ており、オスを引きつけることができます（図参照）。さらに唇弁に生えた毛の伸びる方向に、メスの生殖器があると勘違いさせます。だましその２。花がアルカンと総称される物質を放ちます。アルカンは、一般式 CnH2n+2 で表される鎖状につながった飽和炭化水素であり、昆虫のフェロモンにもなっています。たとえば、サンド・ビーのメスが放出するフェロモンは、トリコサン (C23H48)、ペンタコサン (C25H52)、ヘプタコサン (C27H56) のアルカン混合物ですが、ランもこの3種類のアルカンを発生させ、メスのフェロモンと勘違いしたオスを引きつけることができます。
このように、昆虫を誘って花粉を運んでもらい子孫を残そうとしている虫媒花は、色々進化、工夫して昆虫たちを誘引しています。マツやスギのような風媒花は、花びらのない地味な花ですが、大量の花粉を放出し風任せに受粉を行います。一方、虫媒花は一般に少量の花粉で効率よく受粉できます。また最近の遺伝子解析の進歩から、虫を必要としない効率のよい着果の試みもなされています。その一つの例を次回にご紹介したいと思います。（by Mashi）
参考文献：横内正、昆虫と花の共進化、RikaTan、2016年6月号、56-59
( コラム )
ビ−・オ−キッドの絵（日本蘭協会誌52巻表紙より）