ス−パ−耐性菌と抗菌アロマ 
2016年５月、米国疾病管理予防センターは、知られている抗生物質を含む抗菌薬のすべてに耐性を示す「スーパー耐性菌」の米国内初の感染症例を報告し、この細菌が広がれば、深刻な危険をもたらしかねないと重大な懸念を示しました。ペンシルバニア州に住む４９歳の女性がかかった尿路感染症は、最終的に投与された抗生物質コリスチンでも制御できませんでした。世界保健機関（WHO）でも耐性菌の拡大は、「ポスト抗生物質時代」と名付けるほど危機的状況になりつつあり、「咽頭炎や切り傷のような、軽度な症状が最終的に致命傷となる可能性がある」と警鐘を鳴らしています。
抗生物質や合成抗菌薬の普及とともに、元来有効なはずの抗感染症薬が効かない菌が次々と見つかるようになりました。このように抗生物質や合成抗菌薬の抗菌薬に抵抗性を持つ菌を「薬剤耐性菌」といい、たとえばペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の例があり、さらに複数の抗菌薬に耐性を持つものを「多剤耐性菌」と呼び、多剤耐性結核菌(MDR-TB)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)などの例があります。「ス−パ−耐性菌」は、病原性が特別強いというわけではありませんが、すべての抗菌薬に対して耐性を持ち薬が効かないので、免疫抵抗力の低下した人が感染すると、効果的な治療法がなく、肺炎や敗血症で死に至る場合もあります（図参照）。
抗菌薬が耐性菌に効かない主な理由は、耐性菌が１）薬剤の修飾や分解をする、２）薬剤作用点の変異を起こす、３）薬剤を細胞外へ排出するポンプを獲得する、などがあります。では耐性菌の出現はどのようにしたら防げるのでしょうか？
実は、薬の誤使用や過剰な服用によって、耐性を持つ菌が出現すると考えられています。つまり医療従事者は、不要な抗菌薬の処方を行わないことであり、患者は抗菌薬の処方を無理に求めたり、自分の判断で薬の服用を減らしたりやめたりしないことです。例えば、風邪で医療機関を受診すると、抗生物質が出されることがしばしばありますが、これは日本特有の現象です。抗生物質は風邪のウィルスには効きませんが、他の細菌による重複感染を防ぐため「念のために」抗生物質が処方されるのですが、抗生物質を使っても経過は変わらず、二次感染の予防にもならないことは、日本呼吸器学会がガイドラインで明言しています。また2016年６月には、日本感染症学会ほか8学会が合同で、「抗菌薬適正使用支援プログラム」の必要性に関する提言を国に対して行っています。
さてこのようにやっかいな耐性菌ですが、実は精油による抗菌アロマは、使用法、使用部位は限られていますが、耐性菌にも有効である可能性があります。抗菌薬の作用点のほとんどは、細胞壁の合成阻害、DNAの合成阻害、タンパク質合成系の阻害です（コラム2014-8-19）。脂溶性の性質を持つ精油は、細胞膜に親和性があるので、おそらく菌の細胞膜を非特異的に攻撃するため、薬剤耐性菌にも効果を示すことが期待されます。実際、植物精油は耐性菌に抗菌活性を示すことが報告されています。また精油の持つ抗炎症作用､免疫増強作用も抗菌アロマの利点になります。
このように耐性菌による皮膚の疾病には、抗菌アロマが期待できる可能性があると思われます。本ホ−ムペ−ジの「トピックス」、「機能性アロマ研究のあゆみ」の記事もぜひ併せて御覧下さい。（by Mashi）
参考資料：１）あらゆる抗生物質が効かない「スーパー耐性菌」、米国で初の感染例www.asahi.com/international/reuters/CRWKCN0YI0F7.html 2016年5月27日
２）抗菌薬の適正使用に向けた8学会提言 抗菌薬適正使用支援プログラム推進のために―提言発表の背景と目的― NEW（2016.6.17）日本感染症学会
( コラム )
様々な耐性菌