オーストラリアのブルーマウンテンを訪ねて

2014-9-10 15:57 管理者:  monjyu
 夏休みに伴侶の国際学会参加に同行しオーストラリアに出かけた。ティートリーやユーカリの故郷、そして、古くからのアボリジニの知恵、ちょっと神秘的で、現代に通じるすばらしい技を秘めた国。オーストラリアの自然は、その植生の不思議さと同時に、有袋類という独自の進化を遂げた動物たちにも心惹かれる。  
 8月初旬1週間の学会会期中に抜け出し、シドニー、ニューカッスル辺りのニューサウスウエールズ州を旅して廻っただけなので、帰国した今、是非また行きたいと強く思う。せっかく出かけたので、かねてから興味のあったフィトンチッドとユーカリ繁るブルーマウンテンについてちょっとだけ報告させていただきたい。  
 「木々の生い茂った山々を少し離れたところから眺めると山が緑ではなくて青くみえることがある。」そして、「いたるところ青山あり」。フィトンチッドの研究者トールキン博士と、気象学者であり、フィトンチッドに興味を持ってその成分分析まで行った神山博士の著書の記述である。神山博士は1978年、シドニー北方のブリスベンで開かれた国際空気清浄学会に出席し、「植物体より発散される物質と気象の相関」という発表を行った。下北半島のヒバ林などにかかるブルーヘイズ(山林に太陽光があたって青く変色してみえる)の写真とその位置をフォトマルチ写真で分析したブルーヘイズ構造を示しながら、植物体から発散されるテルペン系物質の微粒子が中心核になって、青いもやの原因物質になる可能性を報告した。この報告に対して、オーストラリアの研究者たちは、シドニー郊外のブルーマウンテンにはユーカリの木が群生していて、それらから多くの揮発性物質があること、ブルーマウンテンのブルーはそれらが関与しているらしいと賛同の意見が多く出たそうである。  
 この青く見える現象は空の青さとも関係する散乱現象である。月から地球を見ると(皆さんもNASAの映像を見たことがあると思いますが)、地球は青く見えるが、その周りの空は黒く見える。私たちは、太陽光の散乱を青い空として見ているのである。太陽光は様々な波長の混合物(光は波長が異なると色が変化するので、様々な色の光の混合物)であり、混合したことによって白色に見える。しかし、光の道筋に障害物が在ると、それぞれの波長の、つまり、それぞれの色の光が散乱する。障害物の粒子サイズによって、レイリー、ミー、非選択的散乱に分類されるが、フィトンチッドなどのテルペン類が中心核となってできた浮遊物は短波長の青い光の波長よりも小さいサイズなので、レイリー散乱を引き起こす。このレイリー散乱は図に示したように青い光は散乱しやすいが、長波長の赤い光などは散乱しにくい。散乱した光は様々な方向に進み、私たちの眼に届く。  
 8月13日、ガイド付きのバスツアーに参加して早朝からブルーマウンテンに向かった。スリーシスターズという3個の岩山が突出した景色の周りに広大な森林が広がっている。その森林も日本の針葉樹林帯とは全く異なった色調で白っぽく見えたのは、ほとんどの木がユーカリで、その木の幹は白っぽく、同時に葉も緑色にわざわざ白の絵の具を混ぜたような色合いだからだと思えた。比較的高い位置にあるロープウエー乗り場で樹木の香りを強く感じたが、森の中を歩いている時は木が大きく育っていたせいか、それほどユーカリの香りを感じなかった。途中の山道で木々が黒く焦げた個所を多数見たが、「ファイアー・プレイスの立て看板が見られた」という神山博士の時代から数十年の時を経ても相変わらずユーカリは落雷などによって山火事になりやすく、それと同時に焦げた木からも新芽を出して成長し森林は維持されていた。ユーカリを種から育てる場合に、熱湯につけると良く発芽するとのことで、強い生命力を感じる。季節は日本の真冬に相当したが、気温は早朝の寒い時間帯で8℃ぐらい、日中は日差しがあれば24〜26℃と日本(著者の住む横浜あたり)の真冬よりは温暖な気候であった。夕方に時々ぱらぱらと少量の雨が降り、木々にも苔が生えていたので乾期でもなかった。実際にブルーマウンテンは写真に示すように遠くの山々が多少は薄青く見えたが、感動するほどではなかった。今度は夏の青い衣をまとったブルーマウンテンに行きたいと考えている。(by Sai)

参考文献
1.B.P.トーキン、神山恵三 共著、「植物の不思議な力=フィトンチッド 微生物を殺す樹木の謎をさぐる」講談社ブルーバックスB−424
2.神山恵三著、「森の不思議」岩波新書 
3.独立行政法人情報通信研究機構 北極域国際共同研究グループ「レイリー・ライダー 空の青さを解明するレイリー散乱」(http://salmon.nict.go.jp/snews/rayleigh/omake/)[/size]
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