ミントの世界のキラリテイ−;嗅覚のかぎ分け術(その2)

2014-3-24 10:25 管理者:  monjyu
かおり分子はミラ−で変身する!?

 ミントと言えばハッカを思い出す方も多いと思いますが、同じシソ科のペパ−ミントやスペアミントなどのミント類は、アロマセラピーのみならず食品、医薬品、化粧品など様々な分野で広く使われています。かおり分子としては、ハッカやペパ−ミントにはℓ−メント−ル、スペアミントにはℓ−カルボン、ハッカやスペアミントにはℓ−リモネン(柑橘類のリモネンはd−リモネンです。後述)が含まれています。実はミントのかおり分子は化学の教科書なのです! では嗅覚のかぎわけ術を見てみましょう。
 少し複雑になりますので、まずミントの香りで頭をすっきりさせて下さい。さてミントのかおり分子には、ℓとかd、さらに(+)とか(−)が良く出てきます。これは同じ化学式の物質(分子)でありながら、偏光を当てたときに光が右回り((+)またはdと表示)になるか左回り((−)またはl と表示)になるかの性質を示しています。この両者を光学異性体と呼び、面白いことに両者は鏡に映した関係になっています(図参照)。図の赤矢印は、側鎖が真ん中の環状構造より上に出ていることを示し、青矢印は、側鎖が真ん中の環状構造より下に出ていることを示しています。このようにちょうど右手と左手のような鏡像関係をキラリテイ−があるといいます。
 メント−ルは化学式
C10H20Oのモノテルペン(炭素数が10ヶ)アルコ−ルですが、ℓ体とd 体があり、お互いが鏡像関係にあります(図の構造式(1)と(2))。図のd−メント−ル(2)をひっくり返すと(2*)の立体構造になりますが、これは(2)と全く同じd−メント−ルです。このようにℓ−メント−ルとd−メント−ルは同じ化学式でありながら、分子の形(立体構造)が少し違い、かおりも少し異なります。ということは、嗅覚受容体が両者の形(鍵)を区別し、異なる受容体(鍵穴)で感知していることになります。このℓ体とd体は、物理化学的性質が同じため簡単に区別することができませんが、嗅覚受容体は区別してかぎ分けているのです!
 ミントが作るメント−ルはℓ体のみですが、化学的に合成するとℓ体とd体の混合物が生成して分けることができません。両者の溶解度、沸点など物理化学的性質は全く同じだからです。この難問を解決したのが2001年にノ−ベル化学賞を受賞した野依良治博士であり、生物しか選択的に作れなかったℓ−メント−ルが、化学的にも選択的に合成(不斉合成といいます)できるようになりました。現在では、ミント由来の天然ℓ−メント−ルと合成ℓ−メント−ルの両方が世界中で広く使われています。  
 さて、スペアミントのかおり分子はℓ−カルボン(3)ですが、鏡像関係にあるd−カルボン(4,4*)はキャラウエイ(姫ウイキョウ)のかおり分子です(図参照)。ハッカやスペアミントには、かおり分子としてℓ−リモネンが含まれていますが、オレンジなどの柑橘類やキャラウエイに含まれているのは、香りの異なるd−リモネンです。ℓ−リモネンは森の香りが、d−リモネンは柑橘系の香りがします。このようにミントの世界はキラリテイ−に富み、かおり分子はミラ−で変身してしまうのです。生物は選択的にミントのかおり分子を作り、そして選択的に感知するきわめて精巧な仕組みを持っているといえます。(by Mashi)  

参考文献:新村芳人:興奮する匂い食欲をそそる匂い、技術評論社(2012)
コラム )