亜鉛不足が様々な症状を引き起こすのは何故?: ATP分解酵素の活性低下

2019-2-23 7:31 管理者:  Mashi

   ミネラルは、日本では13元素(亜鉛・カリウム・カルシウム・鉄ほか)が健康増進法に基づく食事摂取基準の対象として厚生労働省により定められています。平成25年の国民健康栄養調査によると、以前は問題視されることがなかったミネラル不足、特に亜鉛、カルシウム、マグネシウムは万年不足状態だそうです。ミネラル不足が増えているいちばんの要因は、食生活の変化と考えられますが、ミネラルは人の体内で作ることができないため、毎日の食事からとる必要があります。ミネラルは適度な量を摂ることが必要であり、欠乏症は体調不良や病気の原因になります。


   亜鉛は体内に約2g含まれ、主に骨格筋、骨、皮膚、肝臓、脳、腎臓などに分布し、たん白質などの高分子と結合して存在しています。亜鉛欠乏症になると、味覚障害が引き起こされることは有名ですが、その他皮膚炎や口内炎、創傷治癒の遅延、脱毛、下痢、生殖機能低下、免疫低下、成長遅延など様々な症状が引き起こされますし(亜鉛欠乏症)、不定愁訴として原因不明の体調不良の原因にもなります。しかし、このような亜鉛欠乏による多様な症状が、どのようなメカニズムで引き起こされるのか、ほとんど明らかになっていませんでした。


   最近、京都大学、東北大学、山梨大学の研究チームは、エネルギー源であるATP( アデノシン三リン酸)の分解に関わる酵素の多くが亜鉛を必要とする亜鉛要求性酵素であることに着目し調べたところ、亜鉛不足により細胞外ATPの蓄積、およびATPの分解産物であるアデノシンの減少が起きることを世界で初めて明らかにしました。すなわち、亜鉛欠乏症の様々な症状が、細胞外のATP分解の異常(蓄積)によって引き起こされている可能性があります。


   ATPは、細胞内ではエネルギーの産生源やDNAなどの核酸の構成物として機能していますが、酸化ストレスなどの様々な刺激によりATPは細胞外へ放出されます。細胞外に放出されたATPは、内在性の刺激物質(ダンプス:DAMPs、コラム2018-7-4)として認識されます。通常、細胞外へ放出されたATPは種々の分解酵素によって、ADPからAMPそしてアデノシンに分解されますが、このうちATPとADPは炎症性のシグナルを、逆にアデノシンは抗炎症のシグナルを、免疫細胞を始めとする様々な細胞の受容体を介して誘発します。


   このように細胞外ATP代謝は炎症などのシグナルに関わる重要な代謝経路として機能しており、分解酵素の低下によって細胞外ATP代謝が破綻する(ATPがたまりアデノシンが減る)と、炎症や創傷治癒遅延などの多様な症状を引き起こします。この細胞外ATP代謝で機能する分解酵素の多くが亜鉛要求性酵素です。従って、亜鉛不足になると分解酵素が働かず、細胞外ATPが増加することになります(図参照)。


   実際、ラットを用いた実験から、亜鉛欠乏でATP分解酵素の活性が低下し、細胞外ATP代謝が遅延していることが示されました。亜鉛欠乏状態では細胞外ATP分解活性が低下し、これに伴ってATP増加、アデノシン減少が起きていたのです。このATP分解酵素活性の低下や細胞外ATP代謝の遅延は、たった数日の亜鉛欠乏食の摂取で生じ、さらにこの低下した活性は、亜鉛含有食の一日の摂取で劇的に回復する、非常に鋭敏な応答であることも分かりました。ちなみに、亜鉛を多く含む食材は、魚介類、豆類、肉類などです。


   このように、亜鉛と細胞外ATP代謝が、亜鉛要求性酵素の機能を介して密接に関連することから、亜鉛欠乏症では細胞外ATP代謝が破綻することが引き金となって多様な症状を引き起こしていると思われます。ちなみに亜鉛不足は血液検査で分かります(2017年より保険適用になりました)。(by Mashi)


参考文献:Taka-aki Takeda et al., Zinc deficiency causes delayed ATP clearance and adenosine generation in rats and cell culture models. Communications Biology (2018) DOI:10.1038/s42003-018-0118-3
コラム )
亜鉛欠乏は細胞外ATPを増加(炎症シグナル)させ炎症を引き起こす
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