がん患者さんにも口腔ケアは重要:術後の肺炎発症・死亡率を軽減できる

2019-1-19 7:44 管理者:  Mashi

   これまでにも当コラムで、口腔や歯の衛生状態が全身の健康に影響を及ぼす可能性について述べてきました(コラム2017-3-5、2017-5-24、2017-9-2、2017-9-18)。最近では、口腔内の細菌などが血管を通して、各臓器に侵入、増殖し、さまざまな病気の原因になっている可能性も指摘されています。実際、動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中、アルツハイマー病、糖尿病、誤嚥性肺炎等も口腔内の細菌と大きく関係していると考えられています。口の中の清潔を保たなければ、全身的な健康を脅かすことになりかねません。たとえば歯周病にかかっている人は、そうでない人に比べ1.5〜2.8倍も循環器病を発症しやすい、アテローム性動脈硬化部分から歯周病菌が検出される、といった結果も多数報告されています。


   さて、体に大きな侵襲となる手術では、術後に体力が低下し、肺炎などにかかりやすくなり、重症化すると死に至ることもあります。術後肺炎の一つとして、口腔内や咽頭に常在する細菌を含む唾液を気管内に誤嚥して起こる誤嚥性肺炎があります。術後肺炎の発症率は2%〜4%の頻度で起こることが知られており、重症化すると入院日数が伸びたり、死亡率が増加したりします。


   術後肺炎に関しては、歯科医が手術前に口腔ケアを実施することにより、唾液中の細菌量が減り、口腔内の清潔が保たれ、術後肺炎の発症が低減する可能性が示唆されてきました。しかし大規模な臨床データを用いて、その効果を実証した研究はこれまでありませんでした。最近、東京大学大学院医学系研究科の研究グループは、厚生労働省のレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、歯科医による手術前口腔ケアが癌手術後の肺炎発症率や死亡率を減少させることを明らかにしました。


   レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)は、全ての保険者のレセプト(診療報酬請求明細書)データが収集されており、患者が受けた検査や手術・処置、薬の処方などが分かります。そのデ−タベ−スから、2012年から2015年の間に食道、胃、大腸、肺、肝臓などのがん切除手術を受けた50万9,179人の患者のうち、8万1,632人(16.0%)が歯科医による術前口腔ケアを受けていることが分かりました。


   歯科医による術前口腔ケアを受けなかった患者群と、歯科医による術前口腔ケアを受けた患者群を比較すると、術後肺炎の発症率が3.8%から3.3%に低下し、手術後30日以内の死亡率も0.42%から0.30%に低下していました。がんの部位別に解析したところ、特に食道がんの患者さんで効果が大きく、術後の肺炎発症は1.36%に低下、手術後30 日以内の死亡リスクも0.06%に低下していました。小さな差にも見えますが、口腔ケアでこれだけの差が生じるのは大きな現象だと思います。


   このようにがん手術前の患者さんに対する歯科医による口腔ケアは、術後肺炎の発症率と死亡率を有意に減少させることが50万人のデ−タから分かりました。今後は、実際の医療現場において、術前口腔ケアの有用性について、医療従事者・患者が共に認識し、活用していくことが大切だと思われます。


   また余談です。「かくれ家や歯のない口で福は内」「なけなしの歯をゆるがしぬ秋の風」 50歳を前にして全ての歯を失った小林一茶の句です。口腔衛生大切ですね。(by Mashi)


参考文献:Ishimaru M, et al., Preoperative oral care by a dentist and postoperative complications after major cancer surgery: a nationwide administrative claims database study. British Journal of Surgery (2018),  DOI 番号:10.1002/bjs.10915
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がん患者は術前の口腔ケアが重要
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