大動脈瘤も遺伝子の仕業か!?:血管を強くする蛋白質の新発見

2018-9-3 7:04 管理者:  Mashi

   胸部や腹部にできる大動脈瘤は、破裂すると激痛が起こり、患者は急速にショック状態に陥り、生命の危険にさらされます。病因は動脈硬化が主要で、高血圧、喫煙、血管のもろさなどが危険因子です。大動脈瘤は遺伝子疾患とは考えられてきませんでしたが、最近血管の強度に関係した遺伝子が鍵を握っていることが分かってきました。


   胸部大動脈瘤は、心臓に近い胸部の大動脈の血管の壁が薄くなり、瘤(こぶ)のように膨らんでしまう状態になる疾患です(図参照)。しばしば自覚症状がないまま大きくなり、周囲の組織が圧迫されるようになって初めて症状が現れることがあります。たとえば、声帯を支配している神経を圧迫すると、しわがれ声になったり、気管を圧迫すると呼吸困難になり、食道を圧迫すると食べ物を飲み込むことが困難になってきます。外科的根治治療の他に、予防や内科的根治治療法の開発が待ち望まれているのが現状です。


   最近、東北大学大学院医学系研究科と同大学心臓血管外科学分野の共同研究グル−プは、胸部大動脈瘤患者の大動脈血管平滑筋細胞を用いた解析から、これまで胸部大動脈瘤との関連が全く知られていなかった新規蛋白質SmgGDSを発見しました。SmgGDS蛋白質は、細胞の骨格蛋白質の維持に関係する因子を活性化させる蛋白質の1種です。遺伝子改変動物や大動脈平滑筋細胞を用いた解析、さらに多くの臨床検体を用いた検討の結果、SmgGDS が胸部大動脈瘤の発症の原因となる大動脈平滑筋細胞の脆弱化を抑制し、その病態に深くかかわっていることを解明したのです。


   臨床検体を用いた細胞実験から、SmgGDSは細胞内の特定のシグナル伝達経路を通して、大動脈平滑筋細胞の形質維持の役割を担い、胸部大動脈瘤形成を抑制していることが分かりました。遺伝子改変動物(SmgGDS 欠損マウス)では、胸部大動脈径が時間の経過とともに拡大、血管壁の変性も進行し、その後胸部大動脈解離を発症し、さらに胸部大動脈瘤破裂による死亡が増加することが分かりました。逆に、SmgGDS を人為的に胸部大動脈で過剰発現させる(SmgGDS プラスミド投与)ことにより、胸部大動脈瘤破裂による死亡、大動脈血管の拡大を抑制することができました。


   遺伝子病とは直接関係がないと思われていた胸部大動脈瘤ですが、このようにSmgGDS遺伝子(蛋白質)が、胸部大動脈瘤の発症と進行に重要な役割を果たしていることが世界で初めて示されました。現在、胸部大動脈に対する根治治療は、外科的な人工血管置換術だけです。あとは内科的治療として、薬で血圧をコントロールする以外に治療法はありません。ご紹介したように、胸部大動脈瘤の新たな発症機序が明らかになったことから、SmgGDS遺伝子(蛋白質)の治療ターゲットとしての可能性が示され、外科手術に加え、今後は新規治療薬の開発につながることが期待されます。(by Mashi)


参考文献:Masamichi Nogi, et al., SmgGDS Prevents Thoracic Aortic Aneurysm Formation and Rupture by Phenotypic Preservation of Aortic Smooth Muscle Cells. Circulation. (2018) DOI: 10.1161/CIRCULATIONAHA.118.035648
コラム )
SmgGDS遺伝子が胸部大動脈の強度に重要な役割を果たしている
SmgGDS遺伝子が胸部大動脈の強度に重要な役割を果たしている