心筋梗塞時には線維芽細胞が死細胞を食べている!

2018-7-11 6:35 管理者:  Mashi

   心筋梗塞時には、冠動脈の閉塞により心筋の細胞が大量に死にます。さらに壊死した心筋細胞より細胞障害関連分子群(ダンプス:damage-associated molecular patterns: DAMPs)が放出されるため、強い炎症反応が起こり、壊死部の状態はより悪化します。従って死細胞の速やかな貪食、除去は、心筋梗塞の予後を考えるうえで重要な課題です。心筋梗塞では、貪食細胞であるマクロファ−ジが梗塞部位へ浸潤し、死細胞の除去を行うと考えられてきました。しかしながら、実際に死んだ心筋細胞を除去する細胞は、実はよく分かっていませんでした。


   最近、九州大学大学院薬学研究院のグル−プは、心筋梗塞時にはマクロファ−ジに加え、線維芽細胞が死んだ心筋細胞を貪食、処理していることを明らかにしました。線維芽細胞は、間質の線維成分であるコラーゲン、エラスチン等のほか、ヒアルロン酸やグリコサミノグリカンなどを通常合成しています。一方炎症などが起きると、繊維芽細胞は細胞質内にアクチンフィラメントが増加した筋線維芽細胞に分化することが知られています。実は、心筋梗塞時には、この筋線維芽細胞が強い食作用を発揮するようになり、死んだ心筋細胞を貪食、処理していることが新たに示されたのです。


   多くの細胞は、老化したり死を迎えると、細胞表面上にリン脂質であるホスファチジ−ルセリンが露出されます。ホスファチジ−ルセリンは、いわゆる「私を食べて」という「eat me シグナル」となり、マクロファ−ジに認識され貪食、処理されます。この認識には食細胞と死細胞を橋渡しするMFG-E8という蛋白質(貪食促進蛋白質)が関与しています。


   研究者達は、心筋梗塞モデルマウスを用いて調べたところ、梗塞後に貪食促進蛋白質MFG-E8の発現が増加していることを見つけました。ヒトの心筋梗塞患者でも発現が認められるそうです。次に研究者達は、この貪食促進蛋白質がどの細胞から産生されているのか調べました。梗塞部位では炎症が引き起こされ、好中球やマクロファ−ジが集まってきますが、驚いたことに貪食蛋白質はこれらの食細胞で産生されているのではなく、線維芽細胞から変化した筋線維芽細胞から産生されていたのです。


   常在性の線維芽細胞から、心筋梗塞を契機に分化した筋線維芽細胞が貪食能を示すのは今まで知られていませんでした。貪食促進蛋白質MFG-E8の遺伝子発現を阻止すると、筋線維芽細胞の貪食能が減弱するため、心筋梗塞マウスでは、貪食されずに残った死細胞が増加し、炎症の増悪、心臓機能の低下が顕著になるそうです。筋線維芽細胞の貪食能は、マクロファ−ジの貪食能の約40%だそうです。


   これまで、心筋梗塞後の死細胞除去に着目した治療法は考えられてきませんでした。豊富に存在する線維芽細胞に着目した新しい治療法、予後改善法が将来可能になるかもしれません。いずれにせよ、体の細胞は非常時には思いもかけない素晴らしい対応、能力を発揮するのですね。(by Mashi)


参考文献:仲矢道雄、心筋梗塞時の筋線維芽細胞による死細胞貪食、医学のあゆみ264, No.11 988-989 (2018)
コラム )
心筋梗塞時には線維芽細胞が死細胞を食べる!
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