舌下錠より新しいスギ花粉症に対する経口免疫療法の試み

2018-6-6 6:50 管理者:  Mashi

   今年はスギ花粉の飛散が多く、悩まれた方も多かったと思います。M君も、まだ花粉症という疾病がほとんど知られていなかった50年以上前からスギ花粉症に苦しんできました。春先に秩父や奥多摩にハイキングに行くと、目のかゆみ、くしゃみ、鼻水のオンパレ−ドでしたが、平地(横浜)に戻ると嘘のように症状が消えました。その後スギ花粉症という病気を知ってからは、当時病院に行って「花粉症ですので薬を下さい」と言うと、医者に怒られました。「病名は私が判断します」と。もう40年以上前の出来事です。今でも梅が咲き出し、桜が散るまでは「忍の生活」です。


 さて本題です。スギ花粉症は、現在日本人のおよそ3割が罹患しており国民病ともいうべき状態です。現在保険で認められている免疫療法として、舌の下に抗原液を滴下する舌下免疫療法があり、スギ花粉症の患者さんの約7割に効果が期待できるそうです。ただ短期間では効果は期待できず、また3〜5年の治療期間が必要であることが難点です。最近、九州大学病院の研究グル−プは、舌下錠ではなくて、経口摂取による腸管免疫を利用して、スギ花粉症に対する新しい免疫療法の試みを行っています。


   経口摂取用のスギ抗原は、グア−ガムから抽出されたガラクトマンナンと結合させた複合体です。その特徴は、抗原がマスクされているため血中のIgEとの結合性が著しく減少し副作用を起こしにくいこと、腸管で抗原提示細胞上のマンノ−ス受容体に結合し取り込まれ、効率的に免疫寛容を誘導できることです。


   九州大学病院では、和興フィルタテクノロジ−会社の協力のもと臨床研究を行ってきました。摂取法は、カプセルに入れたスギ抗原・ガラクトマンナン複合体を、花粉飛散1か月前から約2か月間毎日服用します。その結果、鼻の症状、眼の症状、抗アレルギ−薬の減薬効果が認められ、副作用は対照のプラセボ群と同等でした。さらにランダム比較試験でも同様の結果が得られたそうです。この複合体を用いた経口免疫療法は、従来の舌下療法では実現できなかった短期間(2か月)で効果が期待でき、利便性に富んだ安全な新しい免疫療法となる可能性があります。保険適用はまだですが期待したいものです。


   さてまた余談です。伊豆韮山の代官をしていた江川太郎左衛門は、江戸幕府の命を受け東京湾に台場を築造し、大砲を設置しました。お台場を作るに当たり、彼は江戸郊外(東京都多摩地方)の木を伐採して使い、その伐採あとに杉の苗木をたくさん植えました。八王子市の高尾山に登ると、150年の時を経て大木となった杉と共に「江川杉」の由来を記した国土交通省の看板があります。江川家の第41代当主だった故江川滉二氏(東京大学医学部名誉教授)と古くからの知り合いだったM君は、「私のスギ花粉症は先生のご先祖が原因だ」などと軽口をたたいていた懐かしい思い出があります。(by Mashi)


参考文献:村上大輔、腸管免疫を利用したスギ花粉症に対する新しい経口免疫療法、医学のあゆみ、264, 1055-1056 (2018)
コラム )
舌下錠より新しいスギ花粉症に対する経口免疫療法の試み
舌下錠より新しいスギ花粉症に対する経口免疫療法の試み