「カリニ肺炎」の病原体はカリニではないし、原虫でもない!!

2018-5-23 7:11 管理者:  Mashi

   今日はちょっと雑学で失礼します。1981年、アメリカで後天性免疫不全症候群 (AIDS) と呼ばれる疾患が報告されると、AIDS(エイズ)患者に多く見られる日和見感染症として、原虫感染による「カリニ肺炎」が注目される様になりました。最近でも辞書によっては、「カリニ肺炎は、栄養不良、血液疾患、AIDS、ステロイド投与など免疫能が低下した時にカリニ原虫の感染により発症する日和見感染症」と記載されていることがあります。ところが現在では「カリニ肺炎」という疾患も、カリニ原虫も存在していないのです!! 一体どうなっているのでしょうか?


   結論を先に言いますと、「カリニ肺炎」は現在「ニューモシスチス肺炎」と呼ばれ、病原体は「カリニ原虫」ではなく「真菌のニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)」です。「カリニ肺炎」という呼称に長く親しんできたために「ニューモシスチス肺炎」という名称に違和感を抱いたり、現在でも寄生虫疾患であると認識している臨床医は少なくないといいます。


   以前「カリニ肺炎」は、ニューモシスチス・カリニ(Pneumocystis carinii) による肺炎とされていました。しかし、ラットから見つかったニューモシスチス・カリニと、ヒトで肺炎をおこすニューモシスチスは異なる種類であることが判明し、ヒトに病原性をもつニューモシスチスは、ニューモシスチス・イロベチイ(Pneumocystis jirovecii)に命名し直され、これによる肺炎は、「ニューモシスチス肺炎」に名称変更されました。この呼称にすることは、2000 年の前半にほぼ決着しているそうです。


   またニューモシスチス・イロベチイは以前原虫に分類されていましたが、遺伝子解析の結果、真菌の一種(子嚢菌門タフリナ菌亜門)であることが判明しました。1988年に18SリボソームRNA遺伝子塩基配列解析により、本菌は原虫ではなく子嚢菌門に属する真菌に近縁であることが示され、1999年に正式に真菌に再分類されました。


   ニューモシスチス・イロベチイを真菌に帰属させる最も大きな理由は、DNA塩基配列解析の結果ですが、DNA塩基配列解析以外に本菌を真菌に分類する根拠は、電子顕微鏡像において細胞壁、細胞内小器官の超微細構造が真菌と極めて類似していることがあります。細胞壁の主要構成成分がβ-Dグルカンであることも真菌の性質です。過去に原虫と認識された原因としては、光学顕微鏡観察では形態学的に原虫に類似していること、抗原虫薬に感受性があること、多くの抗真菌薬に耐性であること、人工培地で培養が困難であったことなどが考えられます。サイエンスが進歩すると、従来の説が覆る典型的な例でしょうか。(by Mashi)


参考文献:藤井毅、Pneumocystis jirovecii (ニューモシスチス・イロベチイ)、日本臨床微生物学雑誌(2016) Vol. 26, No. 3, 195−201
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「カリニ肺炎」の病原体はカリニではないし、原虫でもない
「カリニ肺炎」の病原体はカリニではないし、原虫でもない