アルツハイマー病に関わるアミロイドβを分解する酵素をアストロサイトで新発見

2018-5-2 7:30 管理者:  Mashi

   近年増加しつつあるアルツハイマー病は、脳においてアミロイドβ蛋白が多量に凝集し、老人斑として蓄積していきます。一方、脳に存在する神経細胞以外の細胞(グリア細胞)の一つであるアストロサイト(星状膠細胞)は、神経機能に対して様々な影響を及ぼしていると考えられていますが、アルツハイマー病におけるアストロサイトの関わり合いについてはよく分かっていません。


   最近、東京大学大学院薬学系研究科の研究グループは、アミロイドβを分解する新しい酵素(KLK7)を発見し、その酵素は脳内ではアストロサイトから分泌されていること、またアルツハイマー病患者の脳ではその発現量が低下していることを初めて明らかにしました。さらに新規酵素の遺伝子をノックアウトしたモデルマウスで解析したところ、アミロイドβが分解されずに蓄積が亢進することが分かりました。


   アストロサイトは、脳内の免疫や炎症をつかさどるグリア細胞の一種で、ヒトにおいては神経細胞よりも10倍以上多く存在することが知られています。アルツハイマー病患者の脳ではアストロサイトの異常活性化が認められていますが、この反応はアミロイドβの蓄積や神経細胞の死に対して生じる炎症性反応ととらえられており、アストロサイトがアルツハイマー病の病態形成そのものに深く関わっているとは考えられてきませんでした。


   さて研究グループは、アストロサイトがアルツハイマー病におけるアミロイド病理に直接影響するか検討した結果、アストロサイトの培養上清にアミロイドβを分解する活性が存在することを見出し、解析の結果、KLK7と呼ばれる分泌型の蛋白分解酵素を世界で初めて発見しました(図参照)。興味深いことに、日本人や欧米人のアルツハイマー病患者の脳においてKLK7の発現量が半減していることが確認されたことから、蛋白分解酵素KLK7はアルツハイマー病の病態形成に関与していると思われます。


   一方、アルツハイマー病モデルマウス脳内では、アミロイドβの蓄積に伴い、蛋白分解酵素KLK7の発現量が増加していることが分かりました。アストロサイトに一般的な炎症反応を引き起こすリポ多糖で刺激してもKLK7発現量は増加しませんが、細胞外のアミロイドβが増加するとKLK7の発現が亢進しました。従ってアストロサイトは、細胞外のアミロイドβの増加を感知すると、その分解のためにKLK7発現を上昇させると思われます。残念ながら、アルツハイマー病患者の脳では何らかの理由でこの発現上昇が起こらないと想定されます。


   現在臨床で使用されている認知症の薬として、メマンチン(メマリ−錠)があります。薬理作用としては、神経伝達物質であるグルタミン酸を受容するNMDA受容体に対する拮抗作用と考えられてきました。しかしながら驚くべきことに、今回メマンチンはアストロサイトにおけるアミロイドβ分解酵素KLK7の発現量増加も引き起こすが新たに分かりました。従来の薬理作用に加え、アミロイドβ分解酵素の発現誘導をする素晴らしい薬理効果が新たに分かったのです。これまでにアルツハイマー病の発症機構において注目されてこなかったアストロサイトを標的とすることで、新しい治療法や予防薬の開発につながることが期待されます。(by Mashi)

参考文献:Kiwami Kidana et al., Loss of kallikrein-related peptidase 7 exacerbates amyloid pathology in Alzheimer disease model mice. EMBO Molecular Medicine  (2018) 10, e8184 DOI 10.15252/emmm.201708184| Published online 08.01.2018
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アストロサイトはアミロイドβ分解酵素を出している
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