日本列島の地質、地勢が育んだ和食

2018-4-18 7:30 管理者:  Mashi

   自然を尊ぶ日本人の気質に基づいた食に関する習わし、という形で「和食;日本人の伝統的な食文化」が2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。「フランスの美食術」、「メキシコの伝統料理」、「地中海料理」なども、地域の自然や生活に根ざした食文化として登録されています。では和食の文化はどのような背景で誕生したのでしょうか。


   地質学者の神戸大学海洋底探査センタ−の巽教授・センタ−長が、日本列島の地質、地勢から考察した和食への熱い思いをまとめていますのでご紹介したいと思います。日本列島は、太平洋プレ−ト、フィリピン海プレ−ト、北米プレ−ト、ユ−ラシアプレ−トの4つがぶつかり合い、全世界の地震の20%、活火山の7%が集中する変動帯です。このことが和食の素材をうむ大きな原因になったようです。


   もともとはアジア大陸の一部だった日本列島は、観音開きのドアのように開いてアジア大陸から移動し、日本海ができました。約1500万年前に起きたこの出来事は、古磁気学から西日本は時計回りに、東日本は反時計回りに回転しながら大陸から離れたことが分かるそうです。その後西日本と東日本の隙間を埋めるように南から伊豆衝突帯がぶつかり(図中のA、フォッサマグナ地域)現在のような日本列島ができました。


   こうして誕生した日本海は、和食に欠かせない回遊魚の大きな恵みを与えてくれました。代表的なのは、ブリとマグロです。ブリは九州西方沖から日本海を北上し(ハマチ)、晩秋には逆に北海道沖から日本海を南下し能登半島あたりへやってきます(ブリ)。日本周辺のクロマグロは、琉球諸島沖で産まれ、黒潮組(太平洋側)と対馬海流組(日本海)に分かれ北上します。冬場には共に津軽海峡(クロマグロの産地として有名な大間沖)を回遊し、また日本海あるいは太平洋を南下していきます。


   さて関西では、魚といえばタイ、中でも明石鯛は主役ともいわれています。では明石のタイは何故美味しいのでしょうか。一つの原因は、流れの速い明石海峡を泳ぎ回るタイは、筋肉質になり、エネルギ−源のATPもたくさん持っているからだと言われています。魚肉中のATPは、分解して旨み成分であるイノシン酸に変わるという熟成を経て美味しくなります。


   このタイを育むのは、瀬戸内海の浅瀬です。浅瀬は潮流でかき混ぜられ、海水中の養分や酸素が行き渡り、海の穀倉地帯ともいわれているようです。この浅瀬は、実はフィリピン海プレ−トの沈み込みと関係しています。西南日本をのせたユ−ラシアプレ−トの下に、フィリピン海プレ−トが斜め(北西方向)に沈み込んでいるため、巨大断層である中央構造線(図のB)の北側では、大きなゆがみが生じます。その結果、瀬戸内海では、「灘」と呼ばれる沈降域と「瀬戸」と呼ばれる隆起域が交互に並び、さらに大阪から名古屋にかけて沈降域(湾や盆地)と隆起域(山地)が中央構造線の北側に交互に並んでいます。


   和食で欠かせないのは出汁です。日本の水は、ヨ−ロッパと比べると、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル分に乏しい軟水です。軟水は硬水と異なり、昆布、かつお節、シイタケなどの旨み成分を効果的に煮出すことが可能です。日本が軟水なのは、地勢学的に急流が多く、地盤からミネラル分が充分に溶け込む前に流れてしまうからだと考えられています。日本酒も日本の水のおかげです。日本酒の劣化は鉄イオンで起きますが、鉄分の含量が少ない水は、花崗岩を通過して得られます。実際灘の日本酒を造る水には、極微量の鉄が存在するだけだそうです。花崗岩は、プレ−トの沈み込みによって発生するマグマが冷え固まったものですが、日本列島を広く覆っています。


   何も考えないで楽しんでいる和食が、日本列島の地質や地勢と深い関係があったのですね。温泉と和食に共通する点(プレ−トのぶつかり合い)があったとは驚きです。(by Mashi)


参考文献:巽 好幸、日本列島からのプレゼント:変動帯が育んだ和食文化. Kewpie News 528, 1-14, (2018)
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