腸内細菌叢のお国自慢

2018-4-4 7:20 管理者:  Mashi

   正常な腸内細菌叢(シンバイオシス)が変化し、いわゆるディスバイオシス(逸脱・変容)の状態は、肥満や糖尿病(代謝系疾患)、アレルギ−や炎症性腸疾患(免疫系疾患)、多発性硬化症や自閉症(神経系疾患)などの様々な疾患の病態と関連することを当コラムでも何回かご紹介してきました。


   一方、食習慣や生活習慣が異なる国の間では、それらの違いを反映して、健常人の腸内細菌叢はお互いに異なることが示唆されていますが、その具体的な相違はあまり知られていません。日本人の食習慣や生活習慣は、欧米諸国とは異なり、また先進国の中できわめて低いBMI(ボディマスインデックス:ヒトの肥満度を表す体格指数)と世界有数の平均寿命をもつため、健常な日本人の腸内細菌叢の解明は重要だと思われます。


   腸内細菌叢の研究は、次世代シ−ケンサ−とメタゲノム解析法(ゲノムを網羅的に解読する)の出現により、大きなブレイクスル−がもたらせられています。最近、東京大学大学院と早稲田大学理工学術院を中心とする共同研究グループは、日本人を含めた12カ国のヒト腸内細菌叢データの比較解析を行い、腸内細菌叢の菌種組成が国ごとで大きく異なることや日本人の腸内細菌叢の特徴を明らかにしました。


   研究では、106名の健常人(19〜60歳;BMI: 22 ± 2.7、女42名、男64名)の糞便から調製した腸内細菌叢のDNAを解析し、菌種の帰属や菌種組成等の細菌解析、さらにDNA配列から遺伝子を同定し、それらの機能解析も行いました。外国人のメタゲノム配列データからそれらの細菌と機能解析を同様に行いました。


   その結果、1)同じ国の被験者間の細菌叢の類似性は、他国の被験者間の類似性よりも有意に高い。すなわち、国ごとに特徴的な細菌叢が形成されている。2)細菌叢の特徴から、12カ国は3種類に分類できた。日本人の腸内細菌叢は、ビフィズス菌が多く、バクテロイデスやプレボテラが少なく、フランスやスウェ−デン、オ−ストラリアと同じグル−プだった。一方、食習慣その他が近縁と思われる同じアジア人の中国は、アメリカやロシアと同じグル−プだった。3)細菌の機能解析からは、日本人は炭水化物やアミノ酸代謝の機能が豊富であるが、細胞運動性や複製・修復機能は他国より低かった。


   日本人の高い炭水化物の代謝能は、より多くの短鎖脂肪酸(酢酸や酪酸)、二酸化炭素、水素を生成している可能性があります。短鎖脂肪酸は有用な働きをしますし、水素は抗酸化剤として働き有益です。また、細胞運動性の少なさは炎症反応が少ない腸内環境を示唆し、複製・修復の機能の低さはDNA損傷の少ない腸内環境が想定できます。このような機能の特徴から、日本人の腸内環境は、他の11カ国よりも相対的に健全な状態であると思われます。


   さらに興味深いことも分かりました。海藻の多糖類は、アガラ−ゼやポルフィラナーゼで分解されますが、このような酵素の遺伝子を持つ腸内細菌は、日本人の約90%にみられるのに対して、他の11カ国の人々ではおよそ15%でした。これは日本人が海藻をよく食べることに起因していると思われます。


   日本人の腸内細菌叢は、生体に有益な機能が他国よりも多く、平均寿命の高さや低肥満率等と何らかの関連があると想像されます。(by Mashi)


参考文献:服部正平、西嶋傑、日本人腸内細菌叢のユニ−クさと国間多様性、医学のあゆみ、264 No.1,27−33(2018)
コラム )
日本人の特徴的な腸内細菌叢
日本人の特徴的な腸内細菌叢