ストレス応答遺伝子のジレンマ:必須だが多いと昆虫は短命

2018-3-28 7:36 管理者:  Mashi

   ヒトでも昆虫でも、生物は様々なストレスに耐え、生体防御機構を発揮し生命を維持しています。そうした様々な内因性・外因性ストレスへの対応に不可欠な情報伝達物質として、ホルモンやサイトカインがあります。これらは、対応する受容体(レセプタ−)に結合し、情報伝達が行われ、生体防御機構・生体恒常性の維持が保たれています。


   哺乳動物の代表的なサイトカインとしては、インターロイキン類やインターフェロン類など数多くありますが、昆虫でも少数ながらサイトカイン様物質が報告されています。たとえば、昆虫特有のサイトカインとして、発育を阻害するペプチド(Growth-blocking peptide, GBP)が報告されています。哺乳動物のサイトカインの機能は、多岐にわたることが知られていますが、昆虫サイトカインGBPも、幼虫の発育遅延作用、細胞増殖活性、血球活性化作用、幼虫麻痺誘起作用など多彩な生理活性を示します。しかしながら、対応する受容体であるGBP 受容体については不明でした。


   最近、北海道大学低温科学研究所、佐賀大学農学部、米国国立衛生研究所(NIH)の共同研究グループは、環境ストレスに応答する昆虫サイトカイン(GBP)の受容体の同定に初めて成功しました。研究者達は、キイロショウジョウバエを用いてGBP 受容体を明らかにし、その性質を詳しく調べました。その結果、この受容体は環境ストレス応答において重要な役割を果たしているだけではなく、生体の寿命にも影響していることがわかりました。


   研究者達は、キイロショウジョウバエの遺伝子情報ストック(dsRNA ライブラリー)を用いてGBP 受容体遺伝子のスクリーニング(選定)を行い、GBP受容体(Mthl10 と呼ばれる膜タンパク質)を見つけました。そして、そのGBP受容体遺伝子の発現を抑制した形質転換バエや、GBP 遺伝子を過剰に発現させた形質転換バエを作成し、ストレスを与えることにより、その応答の挙動や寿命との関係について解析しました(図参照)。


   昆虫の発育阻害ペプチド GBPは、多機能性のサイトカインであり、外部の環境から受ける様々なストレスに応答し、免疫や代謝などをコントロールしています。このGBPに応答するGBP受容体の遺伝子発現を人為的に抑制すると、ショウジョウバエは低温や感染といったストレスによって大きなダメージを受けました。これはストレスに対応するときに働くGBP 受容体遺伝子が減少したため、ストレスへの抵抗力が下がったと考えられます。ところが、GBP 受容体遺伝子の発現を抑制した形質転換バエは寿命が延び、反対にGBP 遺伝子を過剰に発現させたハエは、寿命が短くなってしまいました。


   ストレス応答に必須な受容体も、多すぎるとかえって短命だという皮肉な結果です。動物がかかえる宿命的なジレンマでしょうか。ヒトでもサイトカインによって様々な環境ストレスに抗して生命を維持していると考えられますが、サイトカインを多量に分泌してストレス応答機能を常時発揮すると、寿命は短くなるのかも知れません。サイトカインを必要以上に分泌しない生活、ストレスを感知する閾値を適度に上げる生活の知恵が、長寿につながるのかも知れません。いみじくも長寿者がよく言いますよね。「気軽に楽しく、くよくよしないで生活する」と。(by Mashi)


参考文献:Eui Jae Sung. et al., Cytokine signaling through Drosophila Mthl10 ties lifespan to environmental stress. Proc. Natl. Acad. Sci. (2017) DOI: 10.1073/pnas.1712453115
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