ミツバチ由来抗菌ペプチドで見つかった新しい抗菌メカニズム

2018-3-7 7:43 管理者:  Mashi

   動物は細菌や真菌に対抗するため、様々な抗菌ペプチド類を持っています。その多くは、10から50個のアミノ酸残基からなり、アルギニンやリジンに富み、正に荷電しています。一方、細菌の細胞膜はフォスファチジルグリセロールやカルジオリピンのような酸性リン脂質に富み、負に荷電しています。動物細胞の細胞膜では、負に荷電した脂質は細胞膜の内側に隠されています。そのため正に荷電した抗菌ペプチドは、負に荷電した細菌の表層と相互作用を起こし抗菌活性が発揮されます。


   ミツバチもアピデシンと呼ばれるアミノ酸が18個からなる抗菌ペプチドを持ち、主に大腸菌などのグラム陰性菌の生育を抑えますが、その抗菌メカニズムは不明でした。このような中、北海道大学大学院工学研究院を中心とする研究者達は、アピデシンが細胞内の何らかの蛋白質に作用すると仮定し、候補となる蛋白質の発現量をそれぞれ増加させ網羅的に検証しました。その結果、蛋白質合成の完了時に働く翻訳終結因子と呼ばれる蛋白質が、アピデシンの作用標的であることが新たに分かりました。


   研究グループは、抗菌ペプチドの標的分子を見つけるため、遺伝子の過剰発現を利用した手法を新たに開発し探索しました。この方法の原理は、候補となる遺伝子を個別に過剰発現させることで、擬似的に抗菌ペプチドに対する抵抗性を上昇させることに基づいています。すなわち、どの遺伝子産物(蛋白質)を過剰発現させたときに細胞内で抗菌ペプチドの作用が弱まるかを観察することで、標的分子を見つけることができます。


   その結果、抗菌ペプチドのアピデシンは、蛋白質生合成における翻訳と呼ばれるステップの最終段階に関与する、翻訳終結因子という蛋白質が標的分子であることが分かりました。既知の抗生物質では、リボゾ−ムに結合して蛋白質合成系を阻害するものは知られていますが(たとえばテトラサイクリン)、アピデシンは翻訳終結因子を標的とする初めての抗菌物質といえます。


   臨床で使用されている従来の抗菌薬の作用メカニズムは、細菌の細胞壁、細胞膜、細胞質、リボゾーム、核酸、葉酸などを標的として、その合成あるいは機能を阻害することです。ミツバチの抗菌ペプチドアピデシンは、新しい作用メカニズムを発揮することから、他の抗菌剤や抗生物質との相乗効果も期待できます。また、今回開発した探索法は、従来の抗生物質の標的分子特定にも適用できることが確認されたため、今後、抗菌ペプチドをはじめ、抗菌物質の作用メカニズムの解明に広く利用されることが期待されます。自然界には、まだまだ私達の知らない奥深い世界があるようです。(by Mashi)


参考文献:Matumoto K. et al., In vivo target exploration of apidaecin based on Acquired Resistance induced by Gene Overexpression (ARGO assay). Scientific Reports 7, Article number: 12136 (2017)  doi:10.1038/s41598-017-12039-6
コラム )
ミツバチ由来抗菌ペプチドの標的分子はタンパク質合成系終結因子
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