腸由来の抗菌ペプチドによる腸内細菌叢の改善

2018-2-21 7:50 管理者:  Mashi

   腸内細菌叢の変化・異常、たとえば病原性菌の増殖や常在している共生菌の減少・変化は、炎症性疾患・アレルギー・がん・肥満など様々な疾病に関連すると考えられています。また骨髄移植などの造血幹細胞移植では、腸内細菌叢に異常が起こりますが、特に強い異常が起きた場合には、移植の成功率は低くなることが知られています。従って、腸内細菌叢の異常を予防・治療することは、様々な疾患の予防や治療につながる可能性があります。


   腸内細菌叢を改善するためには、身体に良い効果を示す細菌(たとえば乳酸菌、ビフィズス菌など)を含む食品を取り入れるプロバイオティクスがあります。最近では、健康な腸内細菌叢を移植する、糞便移植なども医療施設で試みられています。しかしながら生体側の腸管自身が変化している場合には、投与した有益な菌が増殖して効果を出すことは困難になります。最近、北海道大学大学院医学研究院を中心とする研究グル−プは、腸内の抗菌ペプチドに着目し、抗菌ペプチドの産生を促進する物質の投与、あるいは抗菌ペプチドを直接投与することによって、腸内環境を良くする新しい方法を動物実験で明らかにしました。


   腸管の抗菌ペプチドとしては、以前からディフェンシンファミリーが代表的ものとして知られています。ディフェンシンは正電荷を帯びたペプチドであり、細菌は負電荷を帯びたリン脂質を有していることから、ディフェンシンはこの電荷の差異に基づき細菌と結合し、抗菌活性を発揮します。このディフェンシンは、小腸の腸陰窩基底部(絨毛のくぼみ底部)に見られる好酸性の顆粒を持つパネ−ト細胞から分泌されています(図参照)。パネート細胞は機能的に好中球に類似し、細菌などに曝露された時、陰窩(腺窩、クリプト)の内腔に抗菌物質を分泌し、腸管の生体防御機構に関与しています。


   研究者達は、腸の粘膜細胞を増殖させることが知られているスポンジンを健常マウスに投与し、小腸のパネ−ト細胞数と糞便中のディフェンシン濃度を測定しました。さらに骨髄移植をしたマウスを用いて、スポンジンの投与がパネ−ト細胞の減少や ディフェンシン分泌の低下を予防できるか検討しました。またスポンジンや遺伝子組換えディフェンシンの投与により腸内細菌叢の異常が予防できるか、腸内細菌叢の網羅的解析により評価しました。


   その結果、健常マウスにスポンジンを投与すると、幹細胞からパネ−ト細胞の分化が促進され、パネ−ト細胞が増加、ディフェンシン濃度も上昇しました。マウスの骨髄移植後には、パネ−ト細胞が減少し、ディフェンシンも枯渇することが知られていますが、スポンジンの投与によりパネ−ト細胞や抗菌ペプチド産生が維持され、腸内細菌叢が改善、有害な免疫反応である移植片対宿主病 (GVHD)も低下し、移植後の生存期間も延長しました。


   さらにディフェンシンの経口投与は、腸内細菌叢の異常や移植後の有害な免疫反応を改善させることが判明しました。このようにパネ−ト細胞増殖による抗菌ペプチド生成の促進作用は、腸内細菌叢の異常やそれに起因する疾病に対する対処法として有用であると思われます。(by Mashi)


参考文献:Hayase E. et al., R-Spondin1 expands Paneth cells and prevents dysbiosis induced by graft-versus-host. J Exp Med. (2017) Oct 24.  doi: 10.1084/jem.20170418
コラム )
抗菌ペプチドを分泌するパネ−ト細胞
抗菌ペプチドを分泌するパネ−ト細胞