DNAの新たな役割:バネとして働き細胞を守る

2018-2-1 9:51 管理者:  Mashi

   テレビもゲ−ム機もなかった私の学童期は、外遊びが基本だった。釣りに昆虫採集、空き地での野球や缶蹴り、かくれんぼ。探偵ごっこや自転車での遠出。フラフープやホッピングもあった。ホッピングは、バネが入った竹馬のような遊具で、両足を乗せピョンピョン飛び跳ねて遊んだ。しかし、識者が「持続的な振動は、消化器下垂の原因、脳にも障害が出る恐れ」と警告し、いつしがブ−ムは去った。


   さて細胞にも、ホッピングならぬ振動や圧力が絶え間なくかかっています。では、細胞が外圧で破壊されないように、特に遺伝情報が入った核がつぶれないような防御システムがあるのでしょうか? 驚くことに、実はDNAが外圧を和らげるバネの働きをしているそうです。DNAは遺伝情報というソフト面が注目されていますが、細胞の形を保つというハ−ド面でも働いているようです。


   最近、国立遺伝学研究所と長崎大学の共同研究グル−プは、細胞の核の強さが生み出される仕組みを、物理の先端技術と生化学の研究手法を用いて明らかにしました。研究者達は、直径が1ミクロンの細いガラス針を使ってヒト細胞の核を直接触り、力を掛けたときの核のゆがみを観察することで、核の強さを計測しました。その結果、核は力に対抗するための「硬さ」と「弾性」を合わせ持っていることがわかりました。さらに、この弾性力は、これまで考えられてきた核の構造だけではなく、核内のDNA自体によっても生み出されていることがわかりました。これまで遺伝情報の保持・発現というソフト面からの研究だけだったDNAが、核の弾性を支えるバネの役割を演じているというハ−ド面でも大きな役割を持っていることが示されたのです(図参照)。


   体のほとんどの細胞には、その体重を支えるために強い力がかかっています。心臓や骨格の筋肉をつくっている細胞にも、絶え間ない収縮により強い力がかかっています。白血球のように、血管や組織を動き回る細胞にも、大きな外圧がかかっています。これらの力はDNAが存在する細胞の核にも伝わり、核をゆがめ、DNAの機能を阻害、変化させる可能性があります。このDNAへの影響は、代謝異常や細胞死、がん化などと関連する可能性がありますが、核の硬さや弾性などの性質を直接測ることは難しかったために、この力のストレスに応答するメカニズムはほとんどわかっていませんでした。


   細胞には絶えず力がかかっているため、バネ弾性がないとつぶれてしまい、細胞の機能が損なわれて異常が起きてしまう可能性があります。DNAが凝縮し塊をつくることによって、バネ弾性が産み出されますが、DNAが引き延ばされたり、切れたりすると、バネ弾性が弱くなります。これまでDNAは、遺伝情報を収めるためのメモリデバイスであると考えられてきましたが、この研究結果により、DNAが核のバネとして働くことで核の硬さを制御するという「DNAの新しい役割」が示されたことになります。(by Mashi)


参考文献:Yuta Shimamoto et al., Nucleosome−nucleosome interactions via histone tails and linker DNA regulate nuclear rigidity. Molecular Biology of the Cell (2017) Doi:10.1091/mbc.E16-11-0783
コラム )
凝縮したDNAはバネとして働き細胞を守る
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