グリンパティックシステム:脳内のゴミは睡眠中に洗い流され除去される

2018-1-17 7:15 管理者:  Mashi

   戦後の混乱期が続いていた昭和20年代、30年代には、「ヒロポンはやめましょう」という標語のポスタ−が、街中の電信柱にたくさん貼ってあった。ヒロポンとは、覚醒剤のメタンフェタミンのことである。高校受験を数ヶ月後にひかえ、焦っていた中学3年の少年は薬局に行き、「勉強時間が足りないので寝なくても良い薬を下さい」と伝えたが、知的で優しそうな薬剤師さんに「そんな薬はありません」と断られた。当たり前である。慎重で賢そうに見えた?少年も意外と無鉄砲で阿呆であった。


   人生の三分の一の時間をかけ睡眠する理由は、エネルギー消費量の節約だとか、記憶の整理と固定、免疫調整などさまざまな仮説が挙げられていますが、実はよく分かっていないことが多いという。でも、眠らないと身体に変調をきたすのは誰もが経験済み。睡眠は、疲労回復に必要だとは何となく実感しているが、実際寝ている間に脳内では何が起きているのだろうか?身体全体の4分の1ものエネルギ−を使う脳は、老廃物も多く出るという。実は最近、睡眠中に脳の老廃物が洗い流され除去されているというシステム(グリンパティックシステム)が、2013年の科学雑誌サイエンスに発表されて以来広く注目されています。


   グリンパティックシステムは、脳動脈の周りを覆う脳脊髄液の通り道から、動脈の脈動によるポンプ作用で脳脊髄液を流し、脳細胞間の老廃物を押し流し、脳静脈の周りの脳脊髄液の通り道に老廃物を流し込み、除去するシステムです。このグリンパティックシステムは、単なる拡散による除去と比べ、遥かに強力に脳内の老廃物を洗浄、除去するので、正常に機能していないと脳内に老廃物が蓄積してしまいます(図参照)。


   これまで脳には組織学的に同定されるリンパ管は存在せず、生じた老廃物などの排泄機序は不明でした。脳は神経細胞とグリア細胞で満たされていますが、睡眠中はグリア細胞(アストロサイト)が小さくなって細胞間の隙間を広げ、そこに脳脊髄液が入り込み、リンパ液として老廃物を脳外に運び出していることが分かりました。グリア細胞とリンパ系を合わせてグリンパと呼び、グリンパが行う脳内の老廃物排出システムがグリンパティックシステムと命名されたのです。


   最近では、このグリンパティックシステムとアルツハイマー病との関係も議論されています。グリンパティックシステムが、アルツハイマー病の原因のひとつであるタンパク質のアミロイドβを洗い流しているようなのです。実際、睡眠効率が低い人ほど、アミロイドβの髄液中濃度が異常に高い数値を示すという論文も発表されています。マウスでは、アミロイドβを投与した時に、睡眠時には覚醒時と比較して脳脊髄液から2倍の速度でアミロイドβが除去されることも報告されています。


   睡眠は生命の維持に重要な生理現象であり、脳内の不要な代謝産物などの老廃物排出が睡眠中に増加するのは理にかなっているといえます。グリンパティックシステムも、ぐっすりと眠るノンレム睡眠時に活発になるようです。脳の掃除は夜勤体制。やはり睡眠は大切ですね。眠らないで勉強しようとした少年は最悪。高齢者となった少年も、よく眠らないとグリンパティックシステムがよく働かず、アルツハイマ−病になりやすいかも知れません。ちなみにアインシュタインは10時間以上寝ていたそうですね。(by Mashi)


参考文献: 櫻井武、睡眠・覚醒制御機構研究の新展開、医学のあゆみ(2017)263巻9号、12月第1土曜特集
コラム )
グリンパティックシステムの模式図(Wikipediaの図を改変)
グリンパティックシステムの模式図(Wikipediaの図を改変)