口腔常在菌の中には、腸管に炎症を起こす菌がいる

2018-1-10 8:02 管理者:  Mashi

   これまでにも、口腔衛生は全身の健康と関連することを、本コラムでもご紹介してきました。

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   私達の消化管や口腔などには、多種多様な常在微生物が存在し、免疫系や生理機能に強い影響を与え、健康維持に大きな役割を果たしています。最近、慶應義塾大学医学部と早稲田大学理工学術院の共同研究グループは、口腔細菌が炎症性腸疾患や大腸がんなどの患者便中に多く検出されることに着目し、口腔細菌による腸管免疫系への影響と病気との関わりについて研究を行いました。その結果、口腔に存在するクレブシエラ菌が、腸内細菌叢の乱れた腸管内に定着すると、T細胞の過剰な活性化を引き起こし、炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)などの発症に関与する可能性をマウスモデルで明らかにしました。


   研究者達は、まず腸管炎症患者(クロ−ン病)の唾液を無菌マウスに経口投与し、そのマウスの腸管に存在する免疫細胞を解析しました。その結果、クローン病患者の唾液を投与したマウスの大腸で、インターフェロンガンマ(IFN-γ)を産生するCD4 陽性のヘルパーT 細胞(TH1 細胞 )が顕著に増加していることを発見しました。 次に、このクローン病患者の唾液中のどのような細菌がマウス腸内に定着していたか調べたところ、レンサ球菌属、ビフィドバクテリウム属、クレブシエラ属細菌など約 30 種類の細菌が検出されました。これらの細菌を単離・培養し、無菌マウスへ定着させたところ、クラブシエラ属のクレブシエラ・ニューモニエ( Klebsiella pneumoniae )が TH1 細胞を強く誘導することが分かりました。


   一方、腸内細菌が存在している健常マウスに、クレブシエラ・ニューモニエを経口投与しても腸管内にクレブシエラ・ニューモニエが定着することはありませんでしたが、抗生物質を投与し、腸内細菌叢が乱れたマウスでは、クレブシエラ・ニューモニエが腸管内に定着し、TH1 細胞を強く誘導することが分かりました。また、抗炎症作用を示すインタ−ロイキン−10(IL-10)を欠損しているマウスでは、クレブシエラ・ニューモニエの投与により強い腸管炎症が起こりました。


   実はこの現象は、結果的に腸管炎症患者の唾液だけでは無く、健常者の唾液を用いても、腸管でのクレブシエラ・ニューモニエの定着とTH1 細胞の増加が起こりました。従って、例えば抗生物質などを長期間使用し腸内細菌叢が乱れた場合には、健常者でも腸管へのクレブシエラ属菌の定着、腸管炎症が起きる可能性があり、注意しなくてはいけないと思われます。(by Mashi)


参考文献:Koji Atarashi, et al., Ectopic colonization of oral bacteria in the intestine drives TH1 cell induction and inflammation. Science (2017):Vol. 358, Issue 6361, pp. 359-365. DOI: 10.1126/science.aan4526
コラム )
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