香りを認識する嗅覚受容体の新しい働き

2017-12-28 7:41 管理者:  Mashi

   香り分子を認識する嗅覚受容体は、ヒトではおよそ400種類あり、遺伝子は嗅覚受容体(OR)ファミリーとして、主に鼻粘膜上皮(嗅上皮)において発現しています。しかしながら最近では、嗅覚受容体(OR)は、嗅上皮以外の臓器や組織にも存在し、「香りの感知には関与しません」が、様々な生理機能に関与していると考えられています。本コラムでも、例えば頸動脈(2016-7-7)、角膜(2015-6-8)、 肝(2015-2-25)、 皮膚(2015-1-18)、 肺(2014-6-4)、 腎(2013-12-18)などでの存在を紹介してきました。これらの臓器以外にも、嗅覚受容体は、消化管、脳、心臓、脾臓、血液、卵巣(卵子)、精巣(精子)などに存在し、様々な生理機能に関与する可能性があります。


   今回は、ヒトの骨髄性白血病細胞には、嗅覚受容体のOR2AT4やOR51B5が発現されており、それらの新しい機能を報告したドイツの研究グル−プのご紹介です。嗅覚受容体OR2AT4は、表皮のケラチノサイト、樹状細胞、メラノサイトに存在することが既に知られており、サンダルウッド(ビャクダン)の芳香をもつ合成化合物サンダルペンタノ−ル(サンダロ−ル)が結合することも示されています。ケラチノサイトは、OR51B5も発現しており、細胞の移動や再生、さらにはインタ−ロイキン-6(IL-6)の分泌にも関係すると考えられています。


   研究者達は、ヒト慢性骨髄性白血病細胞株K562および急性骨髄性白血病(AML)と臨床的に診断された患者白血球を用いて、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)および次世代シーケンサ−によって7種類の嗅覚受容体(OR)を明らかにしました。その中でも多く発現していたのは、OR2AT4、OR51B5 、OR52D1でした。


   嗅覚受容体OR2AT4に結合するサンダロールは、アデニル酸シクラーゼ・サイクリックAMP経路を介して、カルシウムイオンの流入を両細胞系で誘導しました。一方、OR2AT4のアンタゴニスト(拮抗薬)であるフェニラ−ト芳香剤は、サンダロール誘発の細胞内カルシウム流入を阻害しました。サンダロ−ルによる嗅覚受容体(OR2AT4)の刺激は、白血病細胞の増殖を減少させ、さらにマップキナ−ゼのリン酸化を介してアポトーシス(細胞死)も誘発することを明らかにしました。


   またサンダロールは、白血病細胞の分化誘導も起こし、ヘモグロビン含有細胞の数を増加させました。このように嗅覚受容体(OR)の刺激により、細胞の分化誘導、増殖抑制、アポト−シス誘導などが起きることが新たに示されました。このメカニズム(香り物質が細胞を制御する)は、急性骨髄性白血病(AML)の治療のための新しい治療選択肢になる可能性も期待されます。


   以前にも述べましたが、嗅覚受容体はもともと生物の体中の各種細胞に広く発現されて、生理作用を担っていたものが、進化の過程で嗅上皮に集約され、香りの感知という「別の新たな機能」を獲得したのかもしれません。 このように香り分子を認識する嗅覚受容体は、思いがけないところで、思いがけない働きをしている可能性がまだまだあると思われます。 (by Mashi)


参考文献:S Manteniotis et al., Functional characterization of the ectopically expressed olfactory receptor 2AT4 in human myelogenous leukemia. Cell Death Discovery 2 (2016), Article number: 15070  doi:10.1038/cddiscovery.2015.70
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嗅覚受容体の新しい機能
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