良く噛むことは成長期の脳の発達に重要

2017-10-9 9:08 管理者:  Mashi

   祖父は日露戦争から、父は太平洋戦争から帰還した。従兄弟達が戦死し、自らも戦地で軍隊生活を送った反動からか、父の口癖は「食事は良く噛んでゆっくりたべよ」「タバコは吸うな」だった。幼少期に良く聞かされたこの「家訓??」も、前者は生かされず、幼少期から今に至るまで早食い、早飯である。今でも周りの人に驚かれ、下品であると思われている。今回ご紹介するような話が少年時代に分かっていたら、もう少し賢い人生になっていたかも知れない、などと思ってしまった。


   縄文時代の人々は、咀嚼(食物を細かくなるまでよくかむこと)回数が多かったと推定されていますが、柔らかく栄養価の高い食品があふれる現代では、咀嚼回数は大幅に減少していると思われます。成長期に咀嚼回数が低下すると、顎の骨や噛むための筋肉だけでなく脳の発達にも悪影響を及ぼすことが知られています。また、加齢に伴い歯を失うことによって咀嚼機能が低下すると、認知症のリスクが高まることも分かってきました。しかし、咀嚼機能と高次脳機能の関係には不明な点が多く残されています。最近、東京医科歯科大学大学院と神戸大学大学院医学研究科の共同研究グル−プは、成長期における咀嚼刺激の低下が、記憶を司る海馬の神経細胞に変化をもたらし、記憶・学習機能障害を引き起こすことを動物実験で明らかにしました。


    研究グループは、離乳期から成長期のマウスに、通常の固形食または咀嚼する必要のない粉末飼料を与え、咀嚼刺激の影響を調べました。記憶実験は、マウスを明るい箱に入れると不安を感じるため即座に暗い箱に入りますが、暗箱に入った際に電気ショックを与え恐怖を学習させると、それ以降マウスは暗箱に入るのを躊躇するというシステムで行いました。その結果、粉末食により咀嚼刺激を低下させたマウスは、記憶力が低下して電気ショックの恐怖を忘れ、通常より早く暗箱に入ってしまうことが分かりました。学習を忘れ、賢くないのです。


   粉末飼料を与えたマウスでは、通常の固形飼料を与えたマウスと比べ、顎顔面の骨や噛むための筋肉の成長が抑制され、さらに記憶・学習機能も顕著に障害されることが判明しました。そこで、記憶・学習を司る脳領域である海馬を解析したところ、粉末飼料を与えたマウスでは神経活動やシナプス形成が低下し、さらに神経細胞の増殖に関わる神経栄養因子が低下し、実際神経細胞も減少していることが明らかになりました。


   すなわち、成長期に咀嚼刺激が低下すると、顎骨や咀嚼筋の成長が低下するだけではなく,脳の記憶・学習機能が障害される可能性が示唆されました。良く噛んでゆっくり食事するのは、大人では肥満防止に、高齢者では認知症予防に、子供では顔面筋肉や顎骨、脳の発達にとても大切なようです。(by Mashi)


参考文献:Y. Fukushima-Nakayama et al., Reduced Mastication Impairs Memory Function. Journal of Dental Research, vol. 96, pp. 1058-1066.(2017) , doi: 10.1177/0022034517708771
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咀嚼刺激は成長期の脳の発達に重要
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