鼻の中の細菌から新たに見つかった抗生物質

2017-8-20 6:57 管理者:  Mashi

   今や男女平均で84歳を超えるようになった日本人の寿命も、私達団塊の世代が産まれた頃は60歳に届かず、50歳代でした。その頃の高齢者も現在の高齢者も遺伝子は同じであり、寿命が伸びたのは、公衆衛生・食・薬などの環境要因の改善のおかげです。実際当時は感染症で命を落とす人も少なくありませんでした。近年減少した感染症も、最近ではまた多剤耐性菌による感染症という新たな問題が起きています(コラム:ス−パ−耐性菌と抗菌アロマ、2016-6-30)。世界保健機構(WHO)によれば、2050年頃には世界的に耐性菌の蔓延により、がんの死亡率を超える可能性も指摘されています。


   耐性菌で良く話題になるのは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、第三世代セファロスポリン耐性グラム陰性菌などですが、このような耐性菌にも有効性を示す新規抗生物質が、なんとヒトの鼻の中の細菌から見つかったという話題をご紹介します。ドイツのテュ−ビンゲン大学の研究者達は、ヒトの鼻腔内に存在する抗菌活性を示すブドウ球菌属の研究から、黄色ブドウ球菌の耐性菌(MRSA)の増殖を抑制するブドウ球菌Staphylococcus lugdunesis (S. lugdunesis) を発見しました。さらにS. lugdunesisの遺伝子解析から、未知のペプチド合成酵素が存在し、その代謝産物であるルグドゥニンに抗菌活性があることを突き止めました。ルグドゥニンはアミノ酸から構成され、チアゾリジン骨格を持つ環状ペプチドでした(図参照)。


   ルグドゥニンは、大腸菌などのグラム陰性菌には効果を示しませんでしたが、グラム陽性菌の多くに抗菌活性を示し、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性菌に有効でした。マウスでの黄色ブドウ球菌による皮膚感染実験では、ルグドゥニン軟膏の塗布により菌の完全消失が観察されました。またラット鼻腔内にS. lugdunesisとS.aureusを同時感染させると、S.aureusの定着が阻止されました。


   黄色ブドウ球菌S.aureusは、約30%のヒトの鼻腔内から見つかる日和見病原菌で、メチシリン耐性菌(MRSA)だけではなく、多剤耐性菌も報告されています。研究者達は、入院患者でS. lugdunesisとS.aureusの保菌率を調べたところ、S. lugdunesisを持っているヒトはS.aureusの保菌率が低いことが分かりました。これはS. lugdunesisの産生するルグドゥニンが、S.aureusの定着を阻止している結果だと思われます。「目と鼻の先」に、素晴らしい自然の恵みが隠されていたとは驚きです。(by Mashi)


参考文献:Zipperer, A. et al., Human commensals producing a novel antibiotic impair pathogen colonization. Nature (2016) http://dx.doi.org/10.1038/nature18634
コラム )
ヒトの鼻から新規抗生物質
ヒトの鼻から新規抗生物質