ルビコン川を渡る:脂肪肝を引き起こす鍵となるタンパク質ルビコン

2017-7-31 7:15 管理者:  Mashi

   日本を含めた先進国では、脂質や糖質、アルコ−ルなどの過度な摂取により肝細胞に脂肪が蓄積する脂肪肝が増加しており、きわめて頻度の高い生活習慣病といえます。さらに脂肪肝の一部は、非アルコール性脂肪肝炎を経て重症化し、肝硬変、肝がんへと進行するため、脂肪肝を抑制することは健康を維持するためにとても重要です。


   さて、大阪大学大学院医学系研究科の研究グル−プは、以前からオートファジー(細胞内に存在するタンパク質や構造体を包み込み、ライソゾーム(消化酵素をもつ細胞小器官)と融合することで包み込んだ内容物を分解する機構。2016年ノ−ベル賞研究)を抑制する働きを持つタンパク質を見つけ、ルビコン(Rubicon; Run domain beclin-1 interacting and cysteine-rich containing protein)と名付けていました。今回は、さらにそのルビコンが高脂肪食により肝臓の細胞の中で増加し、オートファジーを抑制することで脂肪肝の悪化が起きることを明らかにした最近の論文をご紹介します。


   これまで、脂肪肝ではオートファジーが抑制されていることは報告されていましたが、その詳細については不明でした。そこで研究者達は、オートファジーを抑制するタンパク質であるルビコンに注目し、脂肪を与えたヒト培養肝細胞や、過栄養状態で脂肪肝を発生したマウス体内の肝細胞でルビコンの役割を調べました。その結果、今まで発症機序が不明だった脂肪肝は、タンパク質のルビコンが増えることにより、肝臓内でのオートファジーが抑制され、脂肪沈着と肝障害が引き起こされることが判明しました(図参照)。


   また、このルビコンの遺伝子発現がないマウス(ノックアウトマウス)では、マウス肝臓内の脂肪蓄積と細胞死が軽減され、脂肪肝の悪化は、ルビコンの発現上昇を介したオートファジー機能の低下が原因で起こることが確認されました。さらに研究グループは、非アルコール性脂肪肝炎の患者さんの肝臓内でもルビコンの発現が上昇していること確認しています。この研究は、脂肪の過摂取という後天的な環境要因によりオートファジーが低下し、脂肪肝という疾患が発症することを示した貴重な報告です。今まで有効な薬物治療がなかった脂肪肝に対して、ルビコンを標的とした薬の開発が期待されます。肝障害を軽減させ、脂肪肝から重症化する非アルコール性脂肪肝炎や肝がんの発症を抑制することにもつながる可能性があります。


   「後戻りできない決断・行動」を意味する故事として、「ルビコン川を渡る」というのがありますが、脂肪肝へ進む大きな鍵であるルビコンは、まさにその名の通りといえます。(もちろん研究者達はこんな比喩で名前をつけたわけではないと思いますが)。ガチョウの脂肪肝であるフォアグラもルビコンがなせる技かもしれません。いやいやそんなことを考えないで、フランス料理は楽しむ方が良いでしょう。(by Mashi)


参考文献:Satoshi Tanaka et al., Rubicon inhibits autophagy and accelerates hepatocyte apoptosis and lipid accumulation in nonalcoholic fatty liver disease. Hepatology. (2016)   64(6):1994-2014.  doi: 10.1002/hep.28820.
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脂肪肝の鍵、ルビコン
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