乳がんでも細菌は悪さをしているのか?

2017-7-3 7:30 管理者:  Mashi

   がんを意味するCancerは、星座のかに座を表す単語からきていますが、乳がんの増殖した様子がカニのように見えることからその名前がつけられました。約200年前に、華岡清州が世界で初めて全身麻酔で手術したのも乳がんでした。人は昔から乳がんの様子を観察し、対処してきたことが分かります。乳がんは他のがんと比べて、30代、40代の比較的若い頃から発症するという特徴があります。乳がんは、2016年の日本人女性のがん発症(罹患者数)の第1位であり、減少している胃がん(第4位)、頭打ちの大腸がん(第2位)と比べ、現在もその発症率は増え続けています。ちなみに日本人男性では、減少している胃がん(第2位)、頭打ちの肺がん(第3位)と大腸がん(第4位)に比べ、前立腺がんの発症が急速に増加しており、2016年には欧米並みについに第1位となりました。


   さて、ある種のウイルスや細菌が、特定のがんの発症と大きく関係することが広く知られるようになってきました。胃がんにおけるピロリ菌もその例です(コラム: 2017-5-12)。乳がんでは、その末期に細菌と連動した悪臭が知られていますが(コラム: 2014-12-15)、がん発症と細菌感染との関係については従来何も報告がありませんでした。最近カナダの研究者達が、ヒトの乳房組織にも細菌が存在し、乳がん患者と健常人では異なる微生物叢が形成されていることを報告しています。これは乳がんの発症には、特定の微生物が関与している可能性も含め、病態を理解する上で貴重な知見といえます。


   乳房組織には、多様な細菌集団が存在することが以前より知られていたことから、研究者達は、宿主の局所微生物が乳がん発症のリスクを調節している可能性もあると考えました。そこで各細菌の特徴的な核酸である16S rRNAを指標に用いて、乳房がんの女性(58名)の正常な隣接乳房組織と健常人(23名)の対照乳房組織とで存在する細菌に違いがあるか調べました。


   その結果、両者で細菌プロファイルが異なり、乳がんの女性ではバシラス属 、腸内細菌科およびブドウ球菌属などが優位であり、一方健常人群ではプレボテラ属、ラクトコッカス属、ストレプトコッカス属、コリネバクテリア属などが優位でした。また乳がん組織と患者さんの正常な隣接組織では、微生物叢が類似していることも明らかになりました。さらに乳癌患者から単離された大腸菌および表皮ブドウ球菌は、培養細胞の遺伝子(DNA二本鎖)切断を誘導することから、これらの細菌を有する女性は発がんのリスクが高まるかもしれません。


   ヒトの腸管、皮膚、口腔、膣などには,多種多様な微生物(細菌と真菌)が存在し、その微生物叢は宿主と絶妙な相互作用を示しながら健康維持や感染防御などに寄与していますが、微生物叢の構成バランスが破綻すると疾患を引き起こすことがあります。乳がんの発生には女性ホルモンであるエストロゲンが関与すると考えられていますが、不明な点も多く残されています。この論文で明らかになったように、乳がん患者と健常人の間では乳房組織で異なる細菌プロファイルが存在し、また乳がん患者ではDNA損傷を引き起こす細菌が多く、反対に抗発がん性を含む有益な健康影響を示す乳酸菌の減少が観察されるそうです。従って、乳腺組織の微生物叢の解析は、乳がん発症のリスクを考える上で、今後さらに研究すべき重要な課題だと思われます。(by Mashi)


参考文献:Urbaniak C. et al., Appl. Environ. Microbiol.,82, 5039-5048(2016).doi:10.1128/AEM.01235-16
コラム )
乳がん患者と健常人の乳房組織の細菌叢の違い
乳がん患者と健常人の乳房組織の細菌叢の違い