職種で異なる歯周病の発症リスク

2017-5-24 7:14 管理者:  Mashi

   ある著名なビジネス専門誌に、55~74歳の男女1000人にきいた興味深いアンケ−ト結果が出ていました。それは「健康のためにリタイア前にやるべきだった後悔していること」というものです。「日頃から身体を動かせば良かった」、「食事に気をつけるべきだった」、「規則正しい生活をすべきだった」などを抑えて、最も多かった後悔は「歯の定期検診を受ければ良かった」ということでした。


   これまでにも口腔の衛生状態は、全身の健康状態に影響することを述べてきました(コラム2017-3-5)。歯周病は、口腔内の細菌によって発症する慢性炎症性疾患であり、喫煙やアルコール摂取のような生活習慣が、歯周病の危険因子になることも知られています。今回は歯周病にかかるリスクは、職業によって差があるという新しいデ−タをご紹介します。岡山大学病院、愛知学院大学、三重大学の共同研究グループが、歯科検診の受診者を対象に5 年間の追跡研究(コホ−ト研究)を行い、男性における歯周病の発症リスクが職種で異なることを明らかにしました。


   研究グル−プは、愛知県名古屋市内における歯科検診の受診者3390 人(男性2848 人;平均年齢41.0±9.77 歳、女性542 人;平均年齢41.6±10.46 歳)を対象に、2001 年度から2006 年度までの5 年間の追跡研究(コホ−ト研究)を実施しました。職業の分類については、厚生労働省による職業分類(1987 年)を参考にしたそうです。


   その結果、男性では、専門・技術職従事者の歯周病発症リスクを基準にすると、経営・管理職では1.54倍、事務職では1.74倍、販売・営業職では2.39倍、工場・労務関係者では2.52倍、運転・運輸関係者では2.74倍になることが分かりました(図参照)。歯周病の発症リスクが高かった職種は、長時間労働などの精神的なストレスが高いことも報告されており、また仕事による精神的なストレスは、歯科保健行動に悪影響を及ぼすことも知られています。すなわち、職業間における歯科保健行動の違いが、職業間で歯周病発症に差が生じた原因になったと推測されます。一方、女性においては、歯周病の発症と職業との間に有意な関連はありませんでした。女性は男性に比べ、健康に対して気を遣う傾向にあり、社会経済学要因を受けにくい可能性があると研究者達は推論しています。


   最近、子供の貧困、学歴格差、健康格差などが、職業や経済力等の社会経済的要因の違いに由来することが言われています。今回の研究から、男性の販売・営業職従事者、工場・労務関係者、および運転・運輸関係者は、専門・技術職従事者と比べて歯周病の発症リスクが高いことが分かりました。勤務形態や長時間労働などに起因する精神的ストレスが、歯科保健行動に悪影響を与え、その結果歯周病が発症しやすい状況や治療がしにくい状況を生みだしているのかもしれません。現在では、体の定期検診が職場で行われていますが、全身の健康を守る意味からも、今後は定期的な歯科検診や歯科保健指導の実施が、職場で必要かもしれません。(by Mashi)


参考文献:Koichiro Irie et al., Is there an Occupational Status Gradient in the Development of Periodontal Disease in Japanese Workers?: A 5-year Prospective Cohort Study. Journal of Epidemiology, 27, Issue 2, 69–74 (2017),  doi.org/10.1016/j.je.2016.09.002
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