野生動物の警戒心を解き、人になつかせる遺伝子技術

2017-5-7 7:30 管理者:  Mashi
 
   人類は、長い年月の中で野生動物を人為選択し家畜化してきました。一般的に家畜化により、気性がおとなしくなり、人になつき、服従しやすくなります。家畜化は、選択過程を通して、動物の集団が人間に有益な特徴を持つように遺伝子レベルで変化した結果ともいえます。オオカミから家畜化されたイヌも、最近多種類のオオカミとイヌの全ゲノム解読がなされ、イヌが2つの段階を経て家畜化されたことが明らかになっています。最初の段階は約3万3000年前に現在の中国で始まり、1万5000年前の第2段階で、完全に飼いならされたイヌが世界中に広まり、その後現在につながる様々な系統のイヌが産出されてきたと推測されています。
 

   現在世界中で最も広く実験に用いられている哺乳動物は、家畜化されたマウスです。その理由は、豊富なゲノム情報が蓄積されていること、多数の遺伝子改変系統が作り出されていること、取り扱いが容易なことなどです。一方、野生マウスに近い系統のマウスを使うのは、その俊敏さ、警戒心の強さから取り扱いが容易ではありません。このような中、理化学研究所のグル−プは、発生工学技術とゲノム編集技術を組み合わせ、遺伝子改変した野生マウスの開発を行いました。その結果、人をあまり恐れず、人の手に乗っている時間が長いおとなしいマウスを作ることができました。
 

   研究者達は、野生マウスの俊敏性を抑制するために、改変する遺伝子として「アグーチタンパク質遺伝子」に注目しました。この遺伝子を選んだ理由の一つは、アグーチタンパク質が代表的な被毛色を制御するタンパク質のため、生まれた野生マウスの被毛色の変化(主に黒色に変化)により遺伝子改変(ノックアウト)がすぐに分かるという利点です。もう一つの理由は、アグーチタンパク質遺伝子が、「馴化」という生物が新しい環境に適応、順応することに関係する遺伝子の一つであると推察されていることです。実際黒いキツネは、通常の茶色のキツネよりも人を恐れないことが報告されているそうです。
 

   さてゲノム編集技術によりアグーチタンパク質遺伝子が働かない野生マウスを作り出したところ、被毛が茶色の野生色から黒色に変化しました。また、行動解析試験の結果、警戒心が低下し、人の手に乗っている時間が長くなりました。この行動変化には、ドーパミン作動性神経細胞の制御の変化が関与している可能性も示されました。実際アグーチタンパク質は被毛と脳に分布していることが知られています。一方、血清生化学値など他の表現型には変化がなく、遺伝子改変マウスは健康であることが確認されたそうです。
 

   野生動物が生きていくには、捕食者から身を守るためにも強い警戒心が必要です。家畜化により、警戒心が薄れ、人になつくように遺伝子が変化したわけですが、もしかしたら様々な動物の家畜化の過程で、このアグーチタンパク質様の遺伝子群が関係していたのかも知れません。(by Mashi)


参考文献:Michiko Hirose et al., CRISPR/Cas9-mediated genome editing in wild-derived mice: generation of tamed wild-derived strains by mutation of the a (nonagouti) gene. Scientific Reports(2017),  doi: 10.1038/srep42476
コラム )
アグチ−蛋白質遺伝子ノックアウトマウスの特徴
アグチ−蛋白質遺伝子ノックアウトマウスの特徴