腸内エコシステムへの新しいアプロ−チ:メタボロゲノミクス

2017-3-11 8:41 管理者:  Mashi
 
   腸管内には、数百種類以上の細菌が約100兆個も存在し、その数は私達の身体の全細胞数60兆個よりも多いことになります。腸内細菌叢(フロ−ラ)は、腸管免疫系、神経系、内分泌系の宿主の腸管細胞と密接な相互作用をして、複雑な腸内生態系(腸内エコシステム)を形成し、そのバランスは腸管局所だけではなく全身の恒常性維持に重要だと考えられています。その理解のために、最近ではメタボロゲノミクスという概念が提唱されています。
 
   メタボロゲノミクスとは、腸内細菌の遺伝子を網羅的に解析するメタゲノム解析と、代謝物質を網羅的に解析するメタボロ−ム解析の両方を組み合わせて行う研究概念です。すなわち、「メタゲノム解析+メタボロ−ム解析=メタボロゲノミクス」です。今回は、腸内エコシステムが、恒常性維持や疾患の発症にどのように影響しているのか、メタボロゲノミクスという観点から最近の研究をいくつか見てみようと思います。
 
   炎症性腸疾患では、腸内エコシステムの破綻と生体の遺伝子異常がその要因と考えられています。実際、炎症性腸疾患の患者さんの腸内細菌では、クロストリジウム細菌群が減少しています。過去のコラムでもご紹介しましたが、クロストリジウムは制御性T細胞を誘導し、炎症を抑制する働きがあります。慢性炎症から大腸がんに移行する際には、特定の大腸菌の代謝産物であるコリバクチンが、腸管細胞のDNAに傷害を与えるステップがあると考えられています。
 
   胆汁中のコ−ル酸は腸内細菌によりデオキシコ−ル酸になり、炎症性サイトカインを誘導したり、発がんを誘引したりします。高脂肪食を与えた動物では、クロストリジウムXIに属する腸内細菌が増え、その中の特定の細菌がデオキシコ−ル酸を産生していることが最近分かりました。腸内細菌の刺激により腸管の免疫細胞から副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンが産生されたり、腸管の内分泌細胞からセロトニンを放出させたりします。これらの代謝物は、血小板機能や腸管の蠕動運動に影響しています。
 
   腸内エコシステムの乱れは、肥満、糖尿病、動脈硬化などの全身性の代謝疾患や、慢性腎臓病にも関与していることが色々報告されています。肥満や自己免疫疾患では、特定の腸内細菌が減少したり、増加していることも知られています。食品中のレシチンや赤身肉中のカルニチンは、腸内細菌によりトリメチルアミンに代謝された後、消化管から吸収されトリメチルアミン-N-オキシドになり動脈硬化を促進することが、最近のメタボロ−ム解析から分かりました。
 
   腸内細菌は、種々の尿毒症物質を産生しており、慢性腎臓病の発症や増悪にも関与しています。慢性便秘を薬物で治療して腸内環境を改善すると、血中のインドキシル硫酸や馬尿酸などの腸内細菌由来尿毒症物質が低下し、腎不全の改善につながることも報告されています。腸内細菌が作る尿毒症物質の4−エチルフェニルサルフェイトは、血中に移行すると自閉症様症状を呈しますが、特定の腸内細菌を与えるとその血中濃度が低下し、自閉症様症状もおさまるそうです。
 
   腸内細菌は、免疫システムの制御にも大きく係わっていることを過去のコラムで何回かふれました。メタボロ−ム解析からいうと、やはり酢酸、乳酸、酪酸、プロピオン酸などが重要な代謝物です。
 
   腸内細菌叢を含む腸内エコシステムを、メタボロゲノミクスの観点から把握することが、私達の恒常性維持や疾病を理解するために今後ますます重要になると考えられます。腸内細菌は、間違いなく「もう一つの臓器」です。(by Mashi)


参考文献:福田真嗣、メタボロゲノミクスによる腸内細菌叢の機能理解、医学のあゆみ、259, 1152-1160, (2016)
コラム )
腸内エコシステム模式図
腸内エコシステム模式図