飲酒は百薬の長か健康リスクか;日本人31万人の疫学研究から

2017-2-28 8:20 管理者:  Mashi
 
   日常の飲酒は、身体に良いのでしょうか? 悪いのでしょうか? 先達の言い伝え、「酒は百薬の長」は本当なのでしょうか? 『徒然草』には「百薬の長とはいへど、よろずの病は酒よりこそおれ」と書いてあります。
 
   さて、人間の生活集団の中で起こっている病気などの事象を、統計学的に検証する科学的な方法として疫学研究があります。いくつかの手法がありますが、数万人規模で生活習慣を調査し、何年にもわたり病気の発生を前向きに(未来に向かって)調査して比較するコホ−ト研究が良く行われています。時間も人手もかかる大変な作業といえます。
 
   飲酒と発がんに関する国際的な因果関係評価としては、膨大な疫学研究や動物実験から、世界保健機構(WHO)傘下の国際がん研究機関(IARC)が2012年に評価を出しています。それによると、飲酒は口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、大腸、乳房のがんを誘発している十分なエビデンスがあるが、膵臓がんについては限定的なエビデンス、腎臓がんについてはデ−タが不十分としている。
 
   飲酒とそのほかの病気に関しては、WHOと食糧農業機関(FAO)が膨大な疫学研究を解析した因果関係評価があります。それによると、少量から適量の飲酒は、心臓病(冠動脈疾患)のリスクを確実に下げるが、過度の飲酒により脳卒中のリスクが確実に上がると判定しています。そして糖尿病に関しては、関連の証拠が十分ではないとしています。このようなWHOやFAOのまとめた疫学研究は、主に欧米人を対象としたものであり、日本人と飲酒に関しては、欧米人とは異なる遺伝的素因、生活習慣、飲酒習慣である日本人を対象とした疫学研究(特にコホ−ト研究)のデ−タが必要です。
 
   日本においては、1990年前後から大規模なコホ−ト研究が複数実施されるようになり、因果関係評価が次第にできるようになってきました。2016年11月の時点における飲酒と発がんの因果関係は、食道、大腸、肝臓で確実と判定されています。がん死亡者のうち飲酒を原因とする死亡者は約6.2%いると推計され、喫煙、感染に次ぐ3番目の予防可能な日本人のがんの原因と思われます。
 
   食道がんでは、12の疫学研究から飲酒者の危険率は3.3倍と推計されており、お酒に弱いヒト(アセトアルデヒド分解が遺伝的に弱い)では、特に影響が強いことも示されています。大腸がんでは、アルコ−ル摂取量が多くなるほどリスクが高まり、1日のアルコ−ル摂取量が23g以上で発がんリスクが1.4~3倍に上がります。肝臓がんでは、男性が1日69g以上で1.8倍、女性が23g以上で3.6倍の発がんリスクになります。女性はアルコ−ルが代謝されにくいので特に注意が必要です。乳がんは国際的には確実な因果関係がありますが、日本人の疫学研究からは、危険は示唆されるもののデ−タは不十分です。
 
   日本人31万人の疫学研究からは、お酒を飲まないヒトと比較して適量飲むヒトは、総死亡リスクが低く、脳血管疾患、心疾患のリスクも低いことが明らかになりました。1日アルコ−ル摂取量69g以上では総死亡リスクや脳血管疾患のリスクが上昇しますが、心疾患については、69gでも飲まないヒトよりリスクは低いままでした。ただお酒を飲まない集団というのは、体質や病気、体調不良などで飲んでいない、あるいは飲めないヒトなど、もともと若干疾病リスクの高い人々も含まれているので、適量の飲酒が病気の直接的な予防、リスク低減をしているのか注意が必要です。言えることは、「お酒を適量飲める状況のヒトが命、疾病のリスクが低い」ということです。
 
   まとめると、1日アルコ−ル摂取量46g未満(できれば23g)までは総死亡、がん、脳血管疾患、心疾患のリスクは、飲まないヒトより低く、まさに百薬の長といえます。23gというのは、日本酒1合、ビ−ル大瓶1本、ウイスキ−ならダブル1杯程度です。お酒は楽しく飲み過ぎないのがやはり健康には良さそうです。それにしても吉田兼好(徒然草)の700年前の慧眼には驚かされますね。(by Mashi)


参考文献:津金昌一郎、飲酒と健康リスク:日本人のエビデンスの現状、Kewpie News, 514, 1-9 (2016)
コラム )
ほどほどの飲酒は百薬の長
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