森の香りα−ピネン再訪

2017-2-23 8:21 管理者:  Mashi
 
   森の散策は、健康に良いと考えられています(森による癒やしの新たなエビデンス:コラム2016-7-21)。針葉樹林の森にはα−ピネンの香りが、広葉樹林では青葉アルコ−ル類の香りが漂っています。α−ピネンは、ヒノキ、マツをはじめとして様々な針葉樹(コニファ−)が発散しており、森の癒やしの主成分とも言われています。精油では、サイプレス、ジュパニ−、マ−トル、ユ−カリの仲間、ロ−ズマリ−の仲間などにα−ピネンは多く含まれています。以前のコラムでは、ミョウガにも豊富に含まれていることを紹介しました(2017-1-3)。α−ピネンに関しては、様々な成書で既に詳しく解説されていますが、今回はがんに関する最近の研究をご紹介したいと思います。
 
   一般的に精神的なストレス、うつ状態、社会的孤立、運動不足などの状況では、がんの発症や進展が早いと考えられています。これはマウスにも当てはまり、ストレスの少ない豊かな環境(輪車やハシゴなど感覚・運動刺激の良好な環境)で飼育すると、がんの増殖が抑制されるという研究論文もあります。豊かな環境で過ごすことにより、視床下部が刺激され、交感神経系の活性化、引き続くレプチン分泌の低下が、がん抑制の鍵になると研究者達は考えています。
 
   最近、静岡がんセンタ−研究所のグル−プは、α−ピネンによるがんの抑制効果について明らかにしています。研究者達は、マウス皮下にがん細胞を移植し、α−ピネンの存在下、非存在下でがんの増殖の程度を調べました。α−ピネンの濃度は森林の環境濃度に匹敵する200ng/Lとし、がん移植前4週間と移植後3週間に連日5時間α−ピネン存在下で飼育しました。その結果、α−ピネンを嗅いでいたマウスのがんは、α−ピネンを嗅いでいなかったマウスのがんより、約40%抑制されていました。
 
   試験管内で培養したがん細胞にα−ピネンを与えても、がん細胞の増殖は抑制されなかったことから、α−ピネンの効果は、がん細胞に対する直接作用ではなく、宿主を介した効果であると考えられます。実際効果の一つは、豊かな環境で明らかにされたメカニズムと同様、α−ピネン存在群ではノルアドレナリンの増量、レプチン分泌の低下が見られ、視床下部→自律神経→レプチン低下→がん抑制という経路が確認できました。
 
   もう一つの作用機構は免疫系です。免疫系には、自然免疫系と獲得免疫系の二つのシステムがあり、原始的な自然免疫系では、活性化NK細胞や白血球上のToll-like受容体(2011年ノ−ベル賞)が異物の認識、排除を行っています。獲得免疫系では、細胞性免疫に関与するキラ−T細胞や抗体を作るB細胞などが関与しています。α−ピネンを嗅がせたマウスでは、自然免疫系に関与する活性化NK細胞の増加、獲得免疫系のヘルパ−T細胞、キラ−T細胞、B細胞の増加が見られました。このようにα−ピネンは、がんの免疫においても大切な役割を果たしていると考えられます。
 
   このようなα−ピネンのがん抑制効果がヒトでも観察されるのか、他の森の香り物質や精油ではどうなのか、森の香気物質のカクテルではがん抑制の相乗効果が見られるのか、まだまだ知りたい謎がたくさんあります。(by Mashi)


参考文献:楠原正俊、森林の香り成分α−ピネンによるがん抑制効果、TAKASAGO Times, 178, 28-31 (2016)
コラム )
針葉樹(コニファ−)はα−ピネンを発散している
針葉樹(コニファ−)はα−ピネンを発散している