非常時の栄養補給の常識は非常識!?;逆転の発想に学ぶ栄養管理

2017-2-18 8:22 管理者:  Mashi
 
   スポ−ツ界、芸能界、起業家などの中には、若い頃大きな苦難を経験した人が少なくないのはよく知られたことです。逆境をバネにハングリ−精神を持ち、その後の人生で成功を収めた人達です。人生の先達もたくさんの諺を残しています。「艱難辛苦(かんなんしんく)汝を玉にす」、「苦労屈託身の薬」、「獅子の子落とし」、「若い時の苦労は買ってでもせよ」、「親の甘いは子に毒薬」、「可愛い子には旅をさせよ」などなどたくさんあります。人は困難や苦労を乗り越え、努力することによって立派に成長するということですが、どうやら私達の身体の中の細胞にも当てはまりそうです。
 
   私達の身体に侵襲(たとえば外科手術や大怪我)が加わると、生理反応として内因性のエネルギ−が供給されます。筋蛋白より供給されるアミノ酸からの糖新生や脂肪組織からの脂肪酸供給です。侵襲が大きいほどより多くのストレスホルモンやサイトカインが産生されるため、内因性エネルギ−の供給は増大します。これは生物が飢餓との闘いを原動力として獲得してきた、ストレス応答の内因性エネルギ−供給システムです。

   従来の医療現場における栄養療法は、侵襲急性期においても安静時のエネルギ−消費量を点滴などで補充することが普通です。しかしこれだと内的エネルギ−の供給が考慮されないため、生体は「過剰栄養」状態になってしまいます。その結果、蛋白質の代謝が改善されづらく、高血糖状態にもなり、エネルギ−の過剰供給による栄養ストレスから有害事象が起こり、栄養療法自体が逆効果をもたらす危険性があります。実際、重症患者4,640症例を解析した海外の臨床報告でも、臓器機能の回復遅延や感染症の助長が指摘されています(栄養過剰の参考コラム:肥満者は何故感染症にかかりやすいのか?2016-11-26)。
  
   このように高度侵襲急性期では、カロリ−や蛋白質投与の増量は全くの逆効果であり、摂取量の低減下や絶食のほうが生体に有利に作用することが最近認識されつつあり、既成概念の瓦解が始まっているといえます。侵襲急性期においては、カロリ−摂取の20~
40%の減量や2〜3日の絶食が良いようです。これにより、血糖値の低下、インスリンの低下、グルチコルチコイドの上昇など代謝動態の大きな変化を誘導できるそうです。 
   がんの化学療法も生体には大きなストレスであり、正常細胞の死という副作用を伴う一種の生体侵襲です。このことから最近では、抗がん剤投与前後の短期絶食により、副作用の低減下を図る試みが、国外の各施設で広く行われています。抗がん剤投与前後の数日間の絶食により、抗がん剤投与による骨髄毒性の低減や、リンパ球のDNA損傷の防止と損傷回復の促進などの副作用軽減が報告されています。
 
   では一体何故侵襲時における低栄養、絶食が有効なのでしょうか。これに関しては明確な研究があり、実はオ−トファジ−が障害されるようです。オ−トファジ−は、平常時における細胞の廃棄物処理機構であり、飢餓状態では生存のための栄養源を提供します。絶食やエネルギ−欠乏は、オ−トファジ−を活性化させますが、栄養豊富な状態では栄養素(グルコ−スやアミノ酸)やインスリンは、オ−トファジ−の強力な抑制因子として働いてしまいます。その結果、侵襲時に過剰栄養だとオ−トファジ−が正常に機能せず、生体の回復が逆に遅くなってしまうと想定されています。
 
   通常の感覚では、非常時なのだから十分な栄養をつけなければと思いがちですが、どうやら常識は非常識のようです。逆転の発想に学ぶ栄養管理といえます。(by Mashi)


参考文献:寺島秀夫、化学療法中の栄養支持療法、逆転の発想:医学のあゆみ、259, 1035-1044 (2016)
コラム )
非常時の栄養補給は低栄養か絶食で
非常時の栄養補給は低栄養か絶食で