好みが分かれるイオウを含む香り分子

2017-2-8 8:57 管理者:  Mashi
 
   イオウ原子を含む分子は、硫化水素(H2S)に代表されるように、刺激的な悪臭のことが少なくありません。本コラムでも、あまり歓迎されない嫌な臭いの含硫化合物(イオウ原子を含む物質)の例として、スカンクのブチルメルカプタン(2014-12-1)、世界一大きな花ショクダイオオコンニャクのジメチルトリスルフィド(2014-12-15)、果物の王様ドリアンのエタンジオ−ル(2015-5-18)などを紹介してきました。今回は野菜類の含硫香気物質について考えてみたいと思います。
 
   私達の生活の中でなじみの深いユリ科(最近はネギ科と分類されることもあり)ネギ属やアブラナ科の野菜類は、イオウを含む香り分子の宝庫です。ネギ属に属する長ネギ、タマネギ、ワケギ、ニラ、ラッキョウ、ニンニクやアブラナ科のキャベツ、ダイコン、ブロッコリ−には、ジメチルジスルフィド、ジアリルジスルフィド、ジプロピルジスルフィド、イソチオシアネ−トなどの含硫香気物質を発します。これらの香気物質は食欲をそそる香気でもあり、フレ−バ−としても広く利用されています。しかしこれらの香りを嫌うヒトも少なからずいることから、好みが分かれる代表的な香りともいえます。
 
   ところで野菜達は、常時このような香気成分を発しているわけではありません。通常は匂いのしない前駆体物質を持っており、非常時(例えば切られるなどの傷害)に酵素が働き含硫香気物質を漂わせます。図に代表的な無臭の含硫香気物質の前駆体を載せました。主要な無臭の前駆体は、アミノ酸のシスティンから作られるS-アルキルシステインスルホキシド類であり、たとえばネギ類やアブラナ科に見られるメチイン、ニンニクのアリイン、タマネギのイソアリイン、ネギ類のプロピインなどがよく知られています。
 
   ニンニク特有の香り分子であるアリシンは、通常状態のニンニクには存在しませんが、ニンニクを刻んだり傷つけたりして組織を破壊すると、酵素アリナーゼの作用により無臭の含硫化合物アリインから作られます(図下部参照)。野菜が持つこのような含硫化合物は、害虫や捕食からの防御、越冬などのストレス対応、栄養保持に役割があると考えられています。また含硫香気物質が昆虫の誘引物質になっている例もあります。
 
   タマネギの含硫香気物質前駆体イソアリインをめぐる余談?本題?を一つ。イソアリインからは、酵素アリナ−ゼによりスルフォン酸ができ、自動的に香り成分のイソアリシンが生成しますが、実はスルフォン酸からある酵素により催涙成分も同時に生成されることが最近明らかになりました。涙を分泌させる催涙成分プロパンチアール-S-オキシドは、タマネギを切ったときに自動的に発生するものと長い間考えられていましたが、ハウス食品らの研究者達は、催涙成分を合成する酵素を初めて見いだし雑誌Nature に発表しました。そしてなんとこの涙を出させるタマネギの酵素発見で、2013年のイグノーベル賞を受賞したのでした。(by Mashi)


参考文献:鳴神寿昭、植物の力を知る.TAKASAGO Times, 178, 15-18 (2016)
コラム )
好みが分かれるイオウを含む香り分子の前駆体
好みが分かれるイオウを含む香り分子の前駆体