乳幼児の匂いは親の養育行動に影響する

2016-12-27 9:06 管理者:  Mashi
 
   ヒトの嗅覚は何歳頃から機能しているのでしょうか。御存じのように視覚は、物体を認識できるのが生後3〜4ヶ月頃であり、1歳以降急速に発達し、3歳頃に視力が1.0ほどになっていく経過をたどります。実はコラムでも紹介されているように(母と子の絆のはじめとアロマ、2013-10-21, by S.Abe)、生まれたばかりの赤ちゃんでも、成人とほぼ同じレベルの嗅覚を持っていると考えられています。新生児はほとんど目が見えなくても、嗅覚は鋭いので、生後数日が経つと、母親と他人のにおいが嗅ぎ分けられるようになります。
 
   赤ちゃんは、生きていくため自分の母親を嗅覚で認識する必要がありますが、では反対に親は乳幼児の匂いについてどのような認識をしているのでしょうか。皆さんが思い浮かべる「赤ちゃんの匂い」とはどんな匂いでしょうか? よく言われるのは、優しいミルクの匂い、ヨーグルトのような匂い、炊きたてのご飯のような匂い、砂糖たっぷりのミルクティーを思わせる匂い、お日様の匂い、などのようです。
 
   モントリオ−ル大学の研究者達は、新生児の匂いがヒトの脳にどのように作用するのか調査しました。研究グループは、産後3−6週間の母親15人と、出産経験のない女性15人の計30名に、それぞれに脳スキャナーを取り付け、赤ちゃんが2日間着た肌着の匂いを嗅いでもらいました。その結果、全員が赤ちゃんの匂いを「よい香り」と答えたものの、脳スキャンの結果は出産経験の有無で異なったそうです。赤ちゃんの匂いを嗅ぐと女性たちの脳の快楽中枢が光り、活動が活性化している様子が捉えられましたが、出産経験のある母親たちの光り方は、出産経験のない女性たちに比べてはるかに明るかったそうです。

   乳幼児は、乳幼児期特有の容貌、笑顔、泣き声など、親の養育行動を引き出す特性を備えていると考えられています。このような乳幼児の特性は、今までに視覚や聴覚の観点から研究されてきましたが、乳幼児の体から発せられる匂いがどのような影響を両親に与えているか、嗅覚の視点からは殆ど調べられていませんでした。最近、東京大学の研究グル−プは、乳幼児の体から発せられる匂いが、日々の養育にどのように寄与しているのか、乳幼児の両親に質問調査を行い、888件の分析をしました。
 
   その結果、乳幼児の父母、とりわけ0歳児の母親は、日常の育児で子供の匂いに気付き、自発的に嗅いでいることが分かりました。0歳児の母親が最もよく嗅ぐ体の部位は、赤ちゃんのお尻と頭ですが、それ以外に額、口、首、手の匂いに対しても、よい匂いがする、愛おしいなどの愛着に関わる理由で嗅いでいたり、清潔か確認したりするために嗅いでいました。
 
   このように子どもの匂いは親の養育行動につながっており、養育行動の頻度や内容は、子供の発達段階や親の性別(父母)によって異なることも示唆されました。 親の養育行動に対する子供のシグナルの影響については、笑顔や泣き声など、視覚や聴覚のシグナルを中心に研究されてきましたが、乳幼児の匂いという嗅覚による化学的なシグナルも、愛おしいという気持ちの誘起や、衛生状態を知る手がかりとして、親の養育行動につながっている可能性が分かりました。乳幼児の匂いに両親が反応して、心地よい気分になることで、養育の重労働の埋め合わせをし、子供との絆を深めるという進化の賜り物かも知れません。(by Mashi)


参考文献:Okamoto, M. et al., Child odors and parenting: A survey examination of the role of odor in child-rearing. PLoS ONE 11(5): e0154392 (2016)
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乳幼児の匂いは親の養育行動につながる
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