日々の生活環境に影響されやすい男性の遺伝子の修飾!?

2016-12-24 9:12 管理者:  Mashi
 
   遺伝子の発現は、塩基配列で規定された遺伝子の働きによりますが、それ以外にもエピジェネティクスによる発現制御があります。エピジェネティクス(epi- 外、超の意。genetics 遺伝学の意)とは、DNA塩基配列の変化を伴わないが、細胞分裂後も継承される遺伝子発現の状態をいいます。具体的なエピジェネティクスの例としては、DNAのメチル化およびヒストン(DNAと会合している核タンパク質)の化学的修飾(メチル化、アセチル化、リン酸化)などがあります。
   DNAのメチル化は、DNAを構成する4塩基のうちの2種に対するメチル基の付加反応
であり、この修飾は細胞分裂を経ても受け継がれます(コラム:香りの記憶は末代までも2014-1-16)。DNAのメチル化あるいは脱メチル化により、塩基配列情報自体には変化はありませんが、遺伝子発現のオン/オフが切り替わることがあります。DNAメチル化は、一般的には遺伝子発現の抑制ですが、ヒトの多くの悪性腫瘍では正常組織とは異なった過剰メチル化、あるいは低メチル化が見つかっています。低メチル化は、ゲノムの広い範囲で観察され、ゲノム・染色体の不安定化を通じて発がんに影響しているものと考えられています。 
   最近、大阪大学ツインリサーチセンター(双生児研究を目的とした研究機関)の研究グループは、DNAのメチル化の個体差が、常染色体上のDNAにおいては男性のほうが大きく、X染色体上のDNAにおいては女性のほうが大きいことを、世界で初めて明らかにしました。一卵性双生児を対象とすることにより、同一のDNA配列をもつ個体を比較することができ、遺伝的な要素を排除してDNAメチル化の個体差を厳密に解析することが可能となったのです。
 
   今回、ツインリサーチセンターの研究グループは、113組の一卵性双生児を対象(平均年齢67.4歳の35組の男性群、平均年齢55.5歳の78組の女性群)とし、遺伝子が同一の個体においてDNAメチル化の個体差を解析しました。その結果、男性の常染色体では、女性よりもDNAのメチル化が大きく、また一卵性双生児にもかかわらず、男性の兄弟間ではDNAメチル化の個体差が大きいことも判明しました(図参照)。
 
   これまで、ヒトのDNAのメチル化の個体差がどの程度あるのか明らかではなく、またDNAのメチル化の起こりやすさそのものが遺伝的に決まっている可能性もあるため、ヒトのように遺伝子が異なる個体を対象とした解析が困難でした。この研究は、遺伝的背景が同じ一卵性双生児を113組も解析して初めて明らかになった力作といえます。DNAのメチル化は、遺伝子のエピジェネティックな発現制御に関わる代表的なDNA修飾であり、疾患等に及ぼす後天的な要因として注目され、がんをはじめとして様々な臨床検査や治療への応用が期待されています。
 
   今回の成果から、男性のほうが女性よりも環境変化、日々の生活に影響されやすい可能性や、男性のほうが女性よりも環境の変化に遭遇する機会が多い可能性が考えられます。男女で後天的な遺伝子の変化の起こりやすさに違いがあることは、発症率や臨床経過に男女差のある疾患で、DNAのメチル化が及ぼす影響の解明が期待されます。(by Mashi)


参考文献:Mikio Watanabe et al., Within-pair Differences of DNA Methylation Levels between Monozygotic Twins are Different between Male and Female pairs. BMC Medical Genomics(2016) DOI: 10.1186/s12920-016-0217-2
コラム )
一卵性双生児の常染色体DNAメチル化の男女による違い
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