シンナムアルデヒド周辺の香り散歩:フェニルプロパノイド(C6-C3)の仲間達

2016-12-14 9:22 管理者:  Mashi
 
   シンナムアルデヒド(桂皮アルデヒド)は、シナモンの香りの元である桂皮酸誘導体の一つであり、示性式 C6H5CH=CHCHO と表されるフェニルプロパノイド系の芳香成分です(図参照)。以前のコラム(シナモンの香りをめぐる化学の小さな旅2015-4-6)では、桂皮酸のわずかな構造の違いが、香りの違いや生理活性の違いとして現れてくることを紹介した小さな旅でしたが、今回はさらに周辺を散歩してみたいと思います。
 
   植物が作る天然物には、炭素数6個の芳香環(フェニル)に炭素数3個の鎖状側鎖(プロパン)がついたC6-C3骨格を有するものが多く見られ、これらをフェニルプロパノイド(C6-C3)と総称しています。フェニルプロパノイド類の大部分は、アミノ酸であるフェニルアラニンおよびチロシンに由来します。フェニルアラニンやチロシンも芳香環に3炭素の側鎖がついた構造で、フェニルプロパノイド(C6-C3)の一種であることが分かります。フェニルアラニンおよびチロシンの合成経路はシキミ酸を経由することからシキミ酸経路と呼ばれています。またトリプトファンもシキミ酸経路で合成され、その中間体からも芳香物質が生成します。ちなみにヒトは、フェニルアラニンもトリプトファンも体内で合成できないため、食物から必須アミノ酸として取り入れなければなりません。植物は偉大ですね!

   フェニルアラニンは、色々な反応により芳香物質へと変換されます。まず多くの香気成分は、フェニルアラニンが脱アンモニア反応を起こして生ずる桂皮酸から生成されます。桂皮酸が還元されるとシンナムアルデヒドができ、また桂皮酸がβ酸化で代謝され炭素が2個とれると安息香酸となります。桂皮酸が酸化されて生成する2-クマル酸からは、コ−ヒ−酸や、異性化を経て環状化したクマリンが生成し、また2-クマル酸がβ酸化(炭素が2個とれる)を受けるとサリチル酸が生成します(図参照)。さらにフェニルアラニンが脱炭酸(炭素が1個はずれる)して、β−フェニルエチルアミンを生成し、そこからベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、フェニル酢酸、β−フェニルエチルアルコールといった様々な香気成分も生成します。
 
   フェニルプロパノイド(C6-C3)のうち、水に溶けにくい、すなわち極性の低いものは精油成分として存在します。代表的なものには、チョウジ油のオイゲノール、クスノキ属各種の芳香成分であるケイヒアルデヒド、ウイキョウのアネトールがあります。フラボンを含むフラボノイドもフェニルプロパノイド(C6-C3)骨格を有し、カテキン、アントシアニンなど様々な物質のもとになっています(図参照)。

   複数のフェニルプロパノイドが結合してできるものが広義のリグナンですが、その前駆体のコニフェリルアルコールが2個以上縮合してできるものを狭義のリグナンと総称しています。北米原産のメギ科ポドフィルムの根に含まれる有毒成分ポドフィロトキシンはその例ですが、強い抗腫瘍作用があり、ポドフィロトキシンを原料として作られた抗がん剤のエトポシドは、肺小細胞癌、悪性リンパ腫などに臨床で用いられています。

   シンナムアルデヒドの周辺では、このようにフェニルプロパノイドの仲間達が芳香物質をはじめとして大活躍です。ヒトや動物は植物に依存した本当にか弱い存在ですね。(by Mashi)
コラム )
フェニルプロパノイド(C6-C3)の仲間達
フェニルプロパノイド(C6-C3)の仲間達