ヒトの汗の匂いを感知する嗅覚ロボット登場

2016-11-14 15:29 管理者:  Mashi

   蚊の吸血行動は、吸血される側の三つの要因(熱、炭酸ガス、匂い物質)のうちの2個が満たされれば、引き起こされることが知られています(コラム:蚊は何に魅せられるのか? 2015-8-2)。動物の様々な匂いが蚊の誘引因子となりますが、コラム(2014-10-13)で紹介した動物の汗に含まれている2−メチルフェノ−ルや乳酸、オクテノ−ル、2-ブタノン、さらにヒトの足に生息する細菌が作り出す色々な匂い物質が誘引因子になることが知られています。蚊は、口吻の毛髪のような構造の下にある嗅覚神経細胞で、それらの匂い分子を感知しています。
 
   ヒトの汗からも発散されるオクテノ−ルは、蚊が好む代表的な匂い物質であり、近年では炭酸ガスとオクテノ−ルを発散させ、蚊を捕獲する器具「モスキ−トマグネット」などが開発されています。オクテノ−ルは、別名マツタケオールとも呼ばれ、マツタケの香り物質として有名ですが、実はマツタケオールはきのこ一般に広く含まれており、マツタケの独特な香りは桂皮酸メチルが香りの決め手になっています(コラム:シナモンの香りをめぐる化学の小さな旅、2015-4-6)。 
 
   オクテノ−ル(マツタケオ−ル)は、化学的には1-オクテン-3-オールといい、分子式 C8H16O で示される不飽和アルコールです(図参照)。このオクテノ−ルは、皮膚組織で脂質のリノール酸がペルオキシダーゼにより酸化されてヒドロペルオキシドとなったのち、リアーゼにより炭素-炭素結合が切断され、汗に含まれていると考えられています。実はオクテノ−ル(1-オクテン-3-オール)に似た構造をした1-オクテン-3-オンがあり、この物質は金属臭のもとになっています(コラム:金属の匂いの正体は?;金属臭は、実は体から!2015-5-4)。コラムでも述べたように、金属臭は金属の匂いではなく、1-オクテン-3-オンは鉄イオンと皮膚の脂質が反応して、皮膚から匂い物質として発散されたものです。このように1-オクテン-3-オール(オクテノ−ル)と1-オクテン-3-オンは、生成過程も構造式も良く似ています(図参照)。
 
   最近、東京大学生産技術研究所を中心とする研究グル−プは、蚊の触角に存在するオクテノ−ルに対する嗅覚受容体を利用した匂いセンサを開発しました。グループらが以前に開発した細胞膜を模した脂質2重膜(人工細胞膜)を形成する方法を発展させ、単離精製した蚊の嗅覚受容体を膜中に再構成しました。膜中の嗅覚受容体は、ヒトの汗の匂い成分(オクテノール)に特異的に反応し、膜の導電率が変化するため、ヒトの匂い(オクテノ−ル)を検知することができます。さらに、このセンサを小型の無線装置に取り付け、移動ロボットに搭載し、ロボット周辺にオクテノールを漂わせたところ、匂いを検知したロボットは匂いの方向へ動くことができました。

   ヒトの汗の匂いを感知する嗅覚ロボットとして、たとえば視界不良のため、画像探査等が不可能な災害現場などで不明者を探すセンサとして活躍するなど、今後の応用、実用化が期待されます。 (by Mashi)


参考文献:Nobuo Misawa et al., ODORANT SENSOR USING AN INSECT OLFACTORY RECEPTOR RECONSTRUCTED IN ARTIFICIAL CELL MEMBRANE. MicroTAS International Congress, Oct.9(2016)
コラム )
汗の匂いのオクテノ−ル(1-オクテン-3-オール)と金属臭の1-オクテン-3-オン
汗の匂いのオクテノ−ル(1-オクテン-3-オール)と金属臭の1-オクテン-3-オン