身体の蛋白質となるL-アミノ酸、神経を制御するD-アミノ酸

2016-10-14 7:29 管理者:  Mashi
 
   私たちの体を作っている蛋白質は、すべてL-アミノ酸からできています。アミノ酸にはD型とL型があり、両者は鏡に映したような構造(光学異性体)をしているので、右手と左手のような関係です。D-アミノ酸は微生物が産生したりするので、納豆などの発酵食品に含まれていることは以前より知られていましたが、脊椎動物の体には、L型のアミノ酸しかないと長い間考えられてきました。しかしながら近年になり、脊椎動物の体内にもD-アミノ酸が微量ながら存在することが分かってきました。さらにD-アミノ酸はL-アミノ酸のように蛋白質を作りませんが、重要な機能を持っていることも分かってきました。
 
   D-アミノ酸の最初の報告は、D-アスパラギン酸が1986年にラット下垂体から見つかったという論文ですが、それ以後その他の内分泌器官でもD-アスパラギン酸が見つかってきました。さらに大脳ではD-セリンが見つかり、近年の研究からD-セリンは、大脳皮質や海馬に多量に存在していますが、小脳や脳幹には少ないことも分かりました。現在では神経細胞と神経細胞を保護する細胞であるアストロサイトの両者で産生されていると考えられています。D-セリンは、本来存在するL-セリンからラセミ化酵素により細胞内で作られています。
 
   ではD-セリンは、脳の中で一体何をしているのでしょうか? 中枢神経には、NMDA型グルタミン酸受容体があり、この受容体は記憶や学習に関与することが知られています。実はこの受容体は、グルタミン酸と同時にD-セリンが同時に結合して神経伝達が起こります(図参照)。統合失調症などの疾患においては、このNMDA型グルタミン酸受容体が病態に関与していると考えられており、実際D-セリンを投与すると症状が改善されるという報告もあります。
 
   アストロサイトは、神経細胞を保護したり、神経細胞に栄養を与えたりする重要な細胞ですが、このアストロサイトがD-セリン量を調節していることが最近報告されています。アストロサイトにエネルギ−合成経路の解糖系を促す刺激を与えると、D-セリンの合成量が減り、逆に解糖系を止めるとD-セリンが増えます。つまりアストロサイトは、D-セリンの合成量を調節して神経細胞の働きを制御しています(図参照)。D-セリンは、神経細胞を制御する機能性アミノ酸であり、長い間謎のままだった脳内のD-セリンの役割が分かってきました。D-アミノ酸は、L-アミノ酸のように身体のタンパク質のもとにはなりませんが、このように身体の機能を調節する大切な役目を担っています。
 
   D-アミノ酸の余談を一つ。ヒトの眼の水晶体は、蛋白質が整然とした構造を保つことでレンズとしての機能を果たしますが、その中のアスパラギン酸が、老化などでL体からD体に変わってしまうことがあります。蛋白質中にD-アミノ酸が生じると、蛋白質の構造が大きく変化し、本来の役割を果たさなくなります。これが白内障の一因になっていると最近考えられています。(by Mashi)


参考文献:相磯貞和、アストロサイトにおけるD-セリンの産生調節、医学の歩あゆみ、vol 258, No2, 171-172 (2016)
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D-セリンによる神経細胞の制御
D-セリンによる神経細胞の制御