腸内細菌や酪酸は、抗炎症やがんの進展に関与する制御性T細胞を誘導する

2016-9-25 7:39 管理者:  Mashi
 
   前回のコラムでは、腸内細菌で作られる酪酸などの短鎖脂肪酸が、受容体に認識され抗肥満作用を示すことを述べました。今回は、クロストリジウム属などの腸内細菌や酪酸が、制御性T細胞(リンパ球)を誘導したり、その制御性T細胞が抗炎症・抗アレルギ−反応や大腸がんの進展に関与する可能性について述べた3報の論文をまとめてご紹介します。
 
   前回ご紹介した短鎖脂肪酸受容体GPR41や43は、脾臓やリンパ節など免疫系組織にも発現しています。理化学研究所や東京大学、慶應義塾大学の研究グル−プは、腸内細菌が作る酪酸が体内に取り込まれて免疫系に作用し、制御性T細胞という炎症やアレルギーなどを抑える免疫細胞を増やす働きがあることを明らかにしています。
 
   近年、腸内細菌のいない無菌動物や、抗生物質の投与で腸内細菌叢(フロ−ラ)のバランスを崩した動物などを用いた研究から、腸内細菌フロ−ラが免疫系の成熟やその機能維持に重要であることが報告されています。例えば、無菌状態で飼育されたマウスでは、腸管の免疫系の発達が悪く、粘膜で産生される免疫グロブリンA(IgA)濃度も低く、また制御性T細胞の数も少ないことが知られています。
 
   共同研究グループは、クロストリジウム群を無菌マウスに定着させたマウスを作製し、腸内細菌が制御性T細胞を増やすメカニズムを詳しく調べました。クロストリジウム細菌群定着マウスを、細菌の栄養源である食物繊維を多く含む食事を与えたマウス(高繊維食群)と、繊維をほとんど含まない食事を与えたマウス(低繊維食群)の2群に分けてその影響を調べたところ、高繊維食群でのみ制御性T細胞の増加が観察されました。腸内細菌は様々な代謝産物を作っていますが、制御性T細胞を誘導させる代謝物を調べたところ、酢酸やプロピオン酸に強い活性が見られました。炎症性腸疾患の患者さんの腸内細菌フロ−ラには異常が認められ、特に酪酸を作る細菌の割合の低下が顕著です。酪酸が制御性T細胞への分化を誘導し、腸管の炎症を防ぐ重要な因子であることが考えられます。
 
   制御性T細胞は腸内に多く存在し、腸の過剰な炎症や食物アレルギーを抑えるなど、腸管免疫で重要な役割を担っています。慶應義塾大学の研究者達は、腸内の細菌フロ−ラを改善するクロストリジウム属細菌の菌体成分ペプチドグリカンが、免疫調節たんぱく質と免疫制御細胞を誘導し、腸炎を抑えるしくみを解明しました。
 
   制御性T細胞は、強すぎる免疫能を制御し、抗炎症・抗アレルギー作用を示しますが、がん免疫においては逆効果になることがあります。近年、抗PD-1抗体薬や抗CTLA-4薬などの免疫チェックポイント分子阻害薬の出現により、がん免疫治療は劇的な進歩を遂げています。大阪大学の研究者達は、ヒト大腸がんから生きたまま抽出した腫瘍浸潤リンパ球を用いて、免疫細胞群の働きを検討しました。その結果、制御性T細胞が大腸がんに対する免疫を弱め、大腸がんの進行に関与している可能性が示されました。制御性T細胞を「制御」することの難しさはこんな所にもあります。
 
   これまでの腸内細菌、短鎖脂肪酸、抗肥満、制御性T細胞とその機能など、ご紹介したコラムをまとめて図にしました。(by Mashi)


参考文献:1) Takuro Saito et al., Two FOXP3+CD4+ T-cell subpopulations distinctly control the prognosis of colorectal cancers. Nature Medicine  22, 679–684 (2016) doi:10.1038/nm.4086 2) Kashiwagi I. et al., Smad2 and Smad3 Inversely Regulate TGF-β Autoinduction in Clostridium butyricum-Activated Dendritic Cells. Immunity. (2015) ;43(1):65-79. doi: 10.1016/j.immuni.2015.06.010.  3) Furusawa, Y., et al., Commensal microbe-derived butyrate induces colonic regulatory T cells. Nature  504, 446–450 ( 2013)  doi:10.1038/nature12721
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コラムで紹介した腸内細菌に関する一連の話題
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