抗ダニ活性を発揮する植物精油の研究が進んでいる

2014-11-18 14:04 管理者:  monjyu
 ダニは、分類学的にはクモに近い節足動物で、体長1mm以下の小型のものがほとんどである。全世界で約2万種がいる、といわれているが、そのうちの一部が吸血性として、各種の原虫、ウイルス、リケッチア、スピロヘータといった病原体を媒介し、人や家畜の健康に重大な脅威を与えている。日本では、マダニが媒介するウイルス感染症である重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が感染域を拡大し、昨年1月から今年7月までに、和歌山県以西の15県で、73人が発症、24人が死亡している。またツツガムシ病(病原体:ツツガムシ病リケッチア)も全国的に蔓延しているとの報告もある。ほかにマダニが媒介する日本の感染症には、日本紅斑熱(日本紅斑熱リケッチア)、ライム病(スピロヘータの一種「ボレリア」)などがある。世界に目を向けると、アメリカでは、蚊よりも、むしろダニが最も危険な媒介性動物と考えられており、ライム病、ロッキー山紅斑熱(ロッキー山紅斑熱リケッチア)、野兎病(野兎病菌)などのマダニ媒介性感染症の発生数が多い。また、畜産の世界では、マダニ媒介性の原虫感染症であるピロプラズマ病が、甚大な被害を与えている。とくにタイレリア・パルバ原虫を病原体とする東海岸熱は、牛にとって致死的な感染症であり、アフリカ東海岸を中心に猛威を振るっている。
 以上述べたように、ダニが媒介する感染症は、人や家畜の健康を脅かし、病気によっては死に至らしめる危険性が高い。したがって対策が重要であるが、それには感染症の治療のみではなく、感染を防ぐための対策にも注目する必要がある。とくにダニによる吸血行為を防ぐことは効果的な対策と考えられる。具体的には、(1) 環境において人や家畜がダニと接触しえる範囲のダニを殺すこと、および、(2) 人や家畜の皮膚にダニが接触するのを忌避させること、この二つがあげられる。
 最近、植物精油の抗ダニ効果の研究が進んでいるが、いずれも上記二つの対策のいずれかに関わっている。また植物精油は、すでに市販されている化学合成品の抗ダニ物質に比較して環境への負荷が少ないという特長があり、とくに原料植物が低コストで調達可能な地域においては、実用化が期待され、実際にそれを目指したフィールド試験も行われている。以下の項目で、最近の研究を紹介したい。

1.クマツヅラ科イワダレソウ属の植物精油について抗ダニ効果の研究が進んでいる。
 その1種 Lippia gracilis由来の精油は、カルバクロール、チモールといったモノテ ルペンを主成分とし、オウシマダニに対して殺ダニ活性を発揮した。オウシマダニは、 世界の熱帯地域で、原虫感染症である牛のバベシア症を媒介し、人に対してもアナプ ラズマ(グラム陰性桿菌)を媒介してアナプラズマ症を引き起こす。Lippia sidoides  由来の精油もチモールを主成分とし、オウシマダニや熱帯ウマカクマダニに対して殺 ダニ活性を発揮した。熱帯ウマカクマダニは、原虫感染症である馬のバベシア症を媒 介する。
 また同種の精油を用いた別の研究では、クリイロコイタマダニやアムブリオンマ・ カジェネンセといったマダニ類に対して殺ダニ効果を発揮した。前者は、ヒトに対し ては、ロッキー山紅斑熱やヒト・エーリキア症(リケッチア)を媒介し、犬に対して は、イヌ・バベシア症(原虫)やイヌ・エーリキア症(リケッチア)などを媒介する。 同属Lippia triplinervis Gardner 由来の精油は、カルバクロール、チモール、p-シ メンといったモノテルペンを主成分とし、オウシマダニに対して殺ダニ活性を発揮し た。なお、観賞用のランタナは、同科クサギ属の小低木で、香りが強い。

2.キク科コウオウソウ属の植物精油についても抗ダニ効果の研究が進んでいる。
 その 1種、フレンチ・マリーゴールド由来の精油は、4-ビニルグアヤコール、γ-テルピネ ンなどを主成分として含み、クリイロコイタマダニに対して殺ダニ効果を発揮した。 同属シオザキソウ由来の精油は、cis-オシメン、ジヒドロタゲトン、ピペリテノンと いったモノテルペンを主成分として含み、マダニの1種リピセファルス・アッペンジ クラトスに対し忌避効果を発揮した。このダニも牛の東海岸熱を媒介する。同種の精 油を用いた別の研究では、牛舎に対するフィールド試験が実施された。その結果、オ ウシマダニに対し、有意のダニ防除作用が確認された。さらに同種の精油を用いた別 の研究では、Hyalomma属のマダニ(H.rufipes )に対して忌避効果を発揮した。こ のマダニは、ウイルスを病原体とするクリミア・コンゴ出血熱を媒介する。クリミア・ コンゴ出血熱は、今、世界的な問題になっているエボラ出血熱や、マールブルグ出血 熱、ラッサ熱とともに、ウイルス性出血熱4疾患のひとつにあげられている。

3.ローズマリー、スペアミント、マジョラム、およびバジリコ由来の4つの精油につ き、マダニの仲間であるイクソデス・リシヌス、およびタネガタマダニに対する忌避 作用を調べた。その結果、15μg/cm2の散布量で、ローズマリー、およびスペアミ ント精油に強い作用を認めた。さらに両精油について実際にフィールド試験を実施し、有効性が確認された。忌避効果を発揮する成分についても研究し、1,8-シネオール、カンファー、リナロール、4-テルピネオール、ボルネオール、カルボンといった成分に強い効果が認められた。別の研究で、ローズマリー精油を基本剤として含む市販殺虫剤(Eco-Exempt IC2)のフィールド試験が、米メイン州南部のオーク・松樹林で実施された。その結果、ライム病などを媒介するマダニの1種シカダニに対するダニ駆除効果が確認され、その効果は、合成ピレスロイドに匹敵するとされている。

4.オレガノ(シソ科)由来の精油は、カルバクロールを主成分とし、マダニの1種リ ピセファラス・ツラニカスに対し、強い殺ダニ効果を発揮した。また、シソ科イガニ ガクサ属ヒプティス・クレナタ由来の精油は、ボルネオール、1,8-シネオール、p-シ メンなどを主成分とし、2.5%濃度でオウシマダニの飽血成雌ダニの産卵を強く抑制 した。

5.ニューカレドニア特産の針葉樹5種の心材の精油につき、オウシマダニに対する 殺ダニ効果が調べられた。その結果、とくにヒノキ科2種(カリトリス属の1種、ネオカリトロプシス属の1種)の効果が高かった。

6.ペラルゴニウム(フウロソウ科テンジクアオイ属)由来の精油は、10-エピ-γ-オイ デスモールを主成分として含み、ロッキー山紅斑熱を媒介するアメリカキララマダニ に対して、市販の合成忌避剤と同水準の効果を発揮した。精油に含まれているイソメ ントン、リナロールは有効性とは関係がないものと判断された。

7.オイゲノールは、ニワトリに寄生する微小なダニであるワクモに対し、強い殺ダニ 活性を発揮した。オイゲノールは、クローブ、オールスパイス、ローリエといった精 油の主成分である。  

 日本においても、今夏、温暖化やグローバル化などの影響によって、デング熱が流行した。また近年、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が感染域を拡大している。今後、それらを媒介する蚊やダニといった動物から人や家畜を守り、感染症を防ぐという課題が一層重要になるのは明らかである。一般的に、精油は人に対する安全性が高く、環境への負荷が少ないと考えられている。その特性を生かせれば、精油を使用した抗ダニ剤が実用化される可能性は十分あるものと思われる。日本においても、ターゲットになるダニに対して、最も効果の高い植物精油または有効成分についての研究が、さらに進むことを期待したい(by Takky)。  

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Lippia sidoidesとシオザキソウ
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オウシマダニ
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クリイロコイタマダニ
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